文化祭編~Ⅲ.当日・夜の部~

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・18:30『Grasshopper+2=……』  環菜、飯田、悠希、宇野の順番でソロが披露された。  終わった瞬間、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。  楽器を演奏できるわけでも、自分が歌うわけでもないが、メンバーが音楽を通して感じていたものは、観客にも共有されていたようである。  その精一杯の表現方法が、声と拍手だったのだ。  照明がいったん落ちて、場は真っ暗になった。  少し間が空いて、舞台上が明るくなった。  メンバーが見えて、改めて拍手が起こる。  宇野が、スタンドマイクの電源を点けた。 「……ありがとうございます」  そう言って、ニコッと笑った。少し、息が上がっている。  11月だというのに、汗をかいていた。 「いやあ……」 とつぶやいて、宇野は右を向き、メンバーを見た。  4人して、自然と笑いがこぼれる。 「ははっ……やあ、すいません。ありがとうございます」  その様子を温かく喜んでくれる拍手。  宇野は、ギターの弦を少し調整して、マイクに向き直った。 「さて、まだまだ続きますよ!」 「わーい!」 「イェーイ!」 「次はね……ボーカルが変わります」  客席から見て左に位置する、飯田がマイクの電源をつけた。 「さっき、夏目が言っちゃったけどね」 「小崎君ね」  宇野はニヤニヤ笑って言った。  それから、真ん中の通路を指さした。 「小崎、そこ通ってくるから」  おおっと歓声が上がった。何故か、笑い声も混じっている。 「みんな、絶対手出したり、捕まえたりしちゃだめだからね、絶対だよ」 「フリかよ」  飯田がゲラゲラ笑いながら言った。 「お前、あとで小崎に怒られるぞ」 「大丈夫、大丈夫、小崎なら」 「絶対、邪魔しちゃだめだからな、もう1回言っておくぞ」  飯田は客席に向かって、念を押した。  客席がゲラゲラ笑った。  ひどい友人たちである。 「そいじゃ、ま、始めましょうか」  照明が変わった。  宇野のギター、リズム隊、キーボードの順で、曲が始まる。 「全員、後ろ入り口にちゅうもーく!」 と宇野が叫んだ。  スポットライトがそちらに飛んで、腕組みをして仁王立ちしている小崎を照らした。
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