文化祭編~Ⅲ.当日・夜の部~

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「さて、」  曲が終わると、小崎はシャツの袖でまた汗をぬぐった。 「あちい!」 「さて、暑い?」 と宇野が混ぜっ返した。 「いや、違うって。別にそうじゃない」  小崎は苦笑して、手を振った。 「さて、」  改めて仕切りなおす。 「……最後の曲だな」  ぐるり、とグラスホッパーのメンバーを見回す。 「ですね」 と飯田が答えた。 「確か……俺が最初に呼んでもらったのは、去年の文化祭か」 「そう」 「最初は人前で歌うなんて恥ずかしかったけど……」  小崎はもう1度汗をぬぐった。 「楽しかった。俺を入れてくれて――ありがとう」  4人が照れたように笑った。拍手が起こる。 「ははっ」  思わず飯田が笑った。小崎をボーカルに選んだのは、彼だ。  小崎が自然と、飯田に歩み寄る。  応えるように、飯田も手を広げる。  2人はそのまましっかり抱き合った。  小崎は離れると、今度は宇野のほうへ歩いていった。  抱き合ってみると、小柄な宇野の身体は小崎の腕にすっぽり包まれてしまった。  それが何だかおかしくて、2人して笑ってしまう。  ふと、近くの悠希と目が合った。  悠希が笑い返す。  小崎はキーボードを挟んで、手を差し出した。  悠希がその手を取って、ガッチリと握手する。  それから、お互い顔を肩に乗せるようにして体を寄せ、背中を叩き合った。  そして、環菜のほうにやってきた。  環菜は立ち上がると、右手をかかげた。  小崎が歩いてきた勢いそのままに、バチン、と音を立ててハイタッチを交わす。  2人して、痛む手をヒラヒラ振った……。 「こちらこそ、ありがとう」  握手をして、悠希としたようにお互いの背を叩いたとき、環菜は小崎の耳元でそう言った。  思わず、フフッと笑ってしまう。 ――4人とも、同じこと言うんだな……。
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