文化祭編~Ⅲ.当日・夜の部~

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 小崎は定位置に戻ってきた。  さて、次に進もうかとマイクを構えた時、飯田が先に話し始めた。 「あ、そうだ、小崎」 「何?」 「今、すごくいい感じで最後を締めてくれようとしたけど、まだあるからな」 「……は?」  小崎の目が点になった。 「3月の最後のフェス、お前に出てもらうよ」 「え? ちょっと待って、え?」  感動的な空気が、パッと散った。 「え? 俺、聞いてないけど」 「うん、言ってなかったから」 「今、言う?」 「うん、言う」  突然、自分の行動が恥ずかしくなってきてしまった。 「うわ……それ、先に言ってよ」  小崎は、しゃがみこんでしまった。 「俺、今すごい恥ずかしいことしたじゃん」 「いやあ、恥ずかしいことじゃないだろ」  飯田がニヤニヤ笑いながら言った。 「感謝してるのは本当のことだし、ねえ」  そう言って、観客のほうに向いた。 「ということで、来たる3月吉日、○○スタジオで本当に本当の最後のライブ、小崎と夏目を呼んでやります! ご興味ある方はぜひ! 詳しくは今後の発表をお待ちください!」  ちゃっかり宣伝をしておくリーダーであった。 「ほら、立てよ」 と宇野が言った。 「まだ、最後の曲残ってるんだから」 「ああ、そうだそうだ」  小崎は顔を赤くしたまま、立ち上がった。 「それじゃ、行こうか」  イェーイ、と4人が答える。  環菜のカウントで、演奏が突然、始まった。  しばらく会話しかなかった舞台上で、再び生演奏の重厚な音量が、場を揺らす。 「みんな、まだ行けるか!」 と小崎が叫んだ。 「イェーイ!」 「まだ眠くないかー!」 「寝ないー!」 「夜はまだまだこれからだぞ!」 「寝ないー!」 「今夜は寝かせないぞ!」 「寝ないー!」 「少しは寝ろよ!」  あははっと笑いが返ってきた。  マイクを握りなおして、小崎が歌い始める。  若い高校生たちは、音楽に乗せられるがまま、踊り、跳ね、エネルギーをぶちまける。  1番を歌い終わり、小崎がフッと息をつく。  ふと、スポットライトが舞台袖に当たった。 「?」  グラスホッパーはニヤニヤ笑っている。  ただ1人、小崎がポカンと、そちらを見ている。 「何、1人で最後のおいしいところ持って行こうとしてんの」  きゃああっと黄色い歓声が上がった。 「私も歌うよ」
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