文化祭編~Ⅲ.当日・夜の部~

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 悠希は、少し環菜を見て――それからつられたように笑い返した。 「そうだね……終わっちゃったね」  一緒になって、外を見る。 「ねえ、環菜」 「……ん?」 「まだ、続けようね」  環菜が、横を見た。 「受験終わったら、またライブやるじゃん」 「うん……」 「私、ちゃんと合格して、最後のライブ思いっきり楽しみたいな」 「そうだね」  環菜は穏やかに言った。 「そしたらさ……卒業しちゃうけど……」  悠希は寂しそうな、楽しそうな、どちらともつかない笑みを浮かべている。 「大学に行っても続けて……社会人になっても続ける」  悠希も横を見たので、環菜と目が合った。 「正直、どんな仕事するのかとか、まだそこまではわからないけど。でもね、」  その笑みから、寂しさがするっと抜けた。 「でも、音楽は続けたいな。だって、好きだもん」  環菜はうるんだ目で悠希を見つめ続けた。 「せっかくここまで、頑張って練習してきたんだもん。サボったら私、すぐに下手になっちゃうしさ」  悠希が、へへっと笑った。 「環菜、いつか、いつかさ……グラスホッパー、再集結しようね」  環菜の目が少し、細くなった。 「30歳なのか、40歳なのか……もしかしたらおじいさんおばあさんになっちゃうかもしれないけど。きっと、今日と同じくらい楽しいと思うよ」 「……」  環菜は顔を伏せた。  片手で振り払うように、目元をぬぐう。  やっぱり、若いっていいな。  今まで思い悩んでいたことを、たったひとことで消し飛ばしてくれた。 「そうだね」  上げた環菜の笑顔は、いつものそれだった。 「私も続ける。死ぬまで続ける。腕、落ちないようにしなきゃ」 「環菜なら大丈夫だよ」 「いやあ、そうやって油断してると危ないんだって」  悠希がはっとした。 「そうだ! 早く行かなきゃ! 清香がお腹空かせてるよ、きっと。まずい」 「それは緊急事態だ」  環菜も、机から飛び降りた。  決めた。  28歳に戻ったら、ドラムやろう。  もしかしたら、相当腕がなまっているかもしれない。  でも大丈夫だ、学生時代あれだけやったんだから。  何かをやるのに遅いことなんてない。  音楽が大好きな自分のために。  一緒に音楽をやることを待ってくれている仲間に、追いつくために。 →→NEXT:20:25『ナベー・ウォーズ』
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