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・20:25『ナベー・ウォーズ』
「ただいま!」
ビリリ、とあたりを震わせる大音量の声と共に、バシッとめしやの戸が開けられた。
「お帰り!」
娘に負けない大声で返すのは、毎度夏目家の母である。
一連の怒鳴り声に近いほどの声量に、環菜たちがビクッと肩をすくめた。
中には、客はいない。
真ん中のテーブルをいくつかつなげて、長テーブルをつくり、その上には鍋とコンロが3台並んでいる。
めしやで貸切、打ち上げ鍋パーティーである。
「お腹空いたよ」
目の前の光景に溶けた顔を見せた清香、よいしょと中に入って、後ろの友人たちをうながす。
「ほら、入って入って。早く閉めないと、中も寒くなっちゃう」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します、」
ぞろぞろと高校生たち(と、28歳と33歳)が入って行く。
ただ1人、最後尾の小崎だけ、
「ただいま」
と言ったのだった……。
「ふう、中あったかい」
環菜がほおっと息をはいた。
「かばんとコートはそのへんの椅子に適当においていいよ」
清香がてきぱきと指示をする。
「今日はもうお客さん来ないから」
「はーい」
「あと、洗面はこっちね、厨房の中。――足元、気をつけて」
みんなでぞろぞろついていく。
「あ、小崎、うちの中も教えてあげて」
と清香は言った。
8人も順番を待っていたら、時間がもったいない。
半分は小崎について行って、夏目家の住居の洗面を借りた。
「彼はあれなのかな、この家の住人なのかな」
思わず、環菜がそうつぶやいた。
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