25人が本棚に入れています
本棚に追加
手洗いうがいを済ませ、めいめい席に着く。
帰ってきた段階で、母がコンロの火をつけておいてくれたおかげで、すでに少し煮立ち始めている。
「鍋、でかっ!」
と宇野が叫んだ。
見ただけでも、直径30cm以上はありそうだ。
「相撲部屋か」
璃子がたまらずツッコんだ。
「何鍋?」
とあかりが尋ねた。
「ちゃんこ鍋だってさ」
清香が満面の笑みで答えた。
「だから相撲部屋かっての」
止めようにも、どうしても止められない璃子だった……。
「この鍋、1つで何人前だ?」
と飯田が言った。
「何人前かな?」
清香が首をひねって、厨房の母に聞きに行く。
「5~6人前だってさ」
「5……えっ?」
「1、2、」
悠希が人数を数える。
「私たち8人でしょ。それで、15~18人前食べるの?」
思わず、環菜と璃子が吹きだした。
「仕方ないじゃん」
清香がケロッと言い返した。
「うちには、これより小さい土鍋ないんだもん」
「ですよねえ……」
「大丈夫だろ」
ただ1人、小崎だけは清香と同じく平気そうな顔である。
「どうせ、こいつが1人で食っちまうよ」
「うんうん」
「それに……多分、俺の予想だともう1人増えると思う」
「増える?」
小崎は夏目家の住居の方に視線をやって耳を澄ませてみた。
「まだ、来ないみたいだな」
「?」
「まあ、いいや」
小崎はよいしょと立ち上がった。
「みんな、飲み物なにがいい?」
「私、ファンタ!」
清香が元気よく手を挙げた。
「お前は、自分で動けよ」
小崎が清香の肩をぐいっと押す。
「清香ー! つくね持って行ってー!」
厨房から母の声が飛んできた。
「ほら、早く行けよ」
「じゃあ、飲み物用意しておいてね。――私、ジンジャーエールだから」
「お前さっき、ファンタって言ったよな?」
小崎のツッコミは無視して、清香はサッサと厨房に姿を消してしまった。
「多分ジンジャーエールだな……ファンタなんかメニューにないし」
それぞれ、仕事にとりかかる2人を、6人の視線が追いかけた。
「あいつ……婿養子だな」
ぽそっと飯田がつぶやいた。
「それだ、」
環菜がパンと手を叩いて、飯田を指さした。
「婿だよ、婿。すごい合点がいった」
最初のコメントを投稿しよう!