文化祭編~Ⅲ.当日・夜の部~

20/28
前へ
/397ページ
次へ
 手洗いうがいを済ませ、めいめい席に着く。  帰ってきた段階で、母がコンロの火をつけておいてくれたおかげで、すでに少し煮立ち始めている。 「鍋、でかっ!」 と宇野が叫んだ。  見ただけでも、直径30cm以上はありそうだ。 「相撲部屋か」  璃子がたまらずツッコんだ。 「何鍋?」 とあかりが尋ねた。 「ちゃんこ鍋だってさ」  清香が満面の笑みで答えた。 「だから相撲部屋かっての」  止めようにも、どうしても止められない璃子だった……。 「この鍋、1つで何人前だ?」 と飯田が言った。 「何人前かな?」  清香が首をひねって、厨房の母に聞きに行く。 「5~6人前だってさ」 「5……えっ?」 「1、2、」  悠希が人数を数える。 「私たち8人でしょ。それで、15~18人前食べるの?」  思わず、環菜と璃子が吹きだした。 「仕方ないじゃん」  清香がケロッと言い返した。 「うちには、これより小さい土鍋ないんだもん」 「ですよねえ……」 「大丈夫だろ」  ただ1人、小崎だけは清香と同じく平気そうな顔である。 「どうせ、こいつが1人で食っちまうよ」 「うんうん」 「それに……多分、俺の予想だともう1人増えると思う」 「増える?」  小崎は夏目家の住居の方に視線をやって耳を澄ませてみた。 「まだ、来ないみたいだな」 「?」 「まあ、いいや」  小崎はよいしょと立ち上がった。 「みんな、飲み物なにがいい?」 「私、ファンタ!」  清香が元気よく手を挙げた。 「お前は、自分で動けよ」  小崎が清香の肩をぐいっと押す。 「清香ー! つくね持って行ってー!」  厨房から母の声が飛んできた。 「ほら、早く行けよ」 「じゃあ、飲み物用意しておいてね。――私、ジンジャーエールだから」 「お前さっき、ファンタって言ったよな?」  小崎のツッコミは無視して、清香はサッサと厨房に姿を消してしまった。 「多分ジンジャーエールだな……ファンタなんかメニューにないし」  それぞれ、仕事にとりかかる2人を、6人の視線が追いかけた。 「あいつ……婿養子だな」  ぽそっと飯田がつぶやいた。 「それだ、」  環菜がパンと手を叩いて、飯田を指さした。 「婿だよ、婿。すごい合点がいった」
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加