文化祭編~Ⅲ.当日・夜の部~

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「今日ね、本当はね」 と清香が言った。 「このちゃんこに――んっ、あん肝も入れようとしてたんだって」  セリフの間にすき間があったのは、器の中の野菜類を一気に体内に取り込んだからである。 「でも、今日は手に入らなかったんだって」  言いながら、すぐに鍋に手を伸ばす清香であった。 「あん肝って冬じゃないの?」 と悠希が言った。 「いや、10月から3月くらいが旬って言われてるよ」  清香の取り皿のつくね、3個が一気に消えた。 「お父さんが買い出しに行って、あったらたまに買ってくるんだけどね。今朝はなかったんだって」 「そっかあ」  あかりが残念そうに言った。 「ちょっと、食べたかったね」 「もっと美味しくなってたかもね」 と悠希が同調した。  その割には、どんどん取り皿に取って食べているが。 「あん肝かあ……」  環菜がぼやいて、スープをすすった。 「美味しいけどさあ……痛風怖いじゃん」 「何言ってんの」  璃子にひじで小突かれた。 「高校生が痛風の心配をするな」 「いや、結構怖いぞ」  飯田がこそこそ話に入ってきた。 「やつは旨味と幸せとプリン体の塊だからな」 「だから高校生がプリン体とか言うんじゃない!」  璃子は一喝して、鍋に箸を突っこんだ。 「全くもう……」 「しかし、つくねは別だ」  環菜はキッパリ言うと、おたまでつくねを一気に7、8個救い上げた。 「鶏だからな、ヘルシーだ」  飯田も同じように取っていく。 「いくら食べたって、食べ過ぎなんてことはない」 「問題は中身なのであって」 「年齢を重ねたら、高たんぱく低カロリー」 「元気な年寄りほど食べるって言うからね」 「つまり、」  環菜と飯田の声がそろった。 「食べたければ食べるしかない!」 「……」  璃子はノーコメントの姿勢を取った。  だが、しかし。 「その通り!」  突然、隣で男性の声がして、ビクッと肩をすくめた。  見れば、いつの間にか青年が1人、座っている。  そしてどんどん、ちゃんこ鍋を食べていた。 「とうとう来たか!」 と小崎が叫んだ。
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