25人が本棚に入れています
本棚に追加
いくらおかわりがあると言っても、鍋にもいつかは終わりが来る。
相当量の野菜と肉を消費した後は、雑炊タイムである。
3台あるうちの1つは清香、1つは母が、1つは小崎が作る。
「そう言えばさ、」
くつくつ煮える米を眺めながら、あかりが言った。
「どうして今回の後夜祭、曲名を伏せたの?」
「曲名を伏せた?」
と璃子が言った。
「うん、何を歌うってはっきり書いてなかったじゃん」
「ん……? この話の流れは何か不安だぞ」
1人、腕組みをして考える璃子をよそに、飯田が答えた。
「聴いてくれている人たちにとっての、グッとくる曲を思い浮かべてほしかったんだよ」
「と言うと?」
「こちらからはっきり、○○って曲名を言ってもさ、それを知らない読者の方もいるかもしれないでしょ?」
と環菜が続けた。
「世代間のアレとか?」
「そうそう」
「やはり……」
1人、璃子がうなだれている。
「その割には、普段からパロディ、結構入れてくるけどね……」
「かっこいいって思ったり好きだと思う歌って、人によって色々じゃん?」
と悠希が言った。
「こっちで指定してもいいけど、どうせなら好きにシーンを思い浮かべてもらうのもありかなって。な?」
宇野が飯田を見た。
「実は、小崎と夏目の2人に頼んだのも、男性と女性のボーカルそれぞれが欲しかったからなんだ」
「なるほどね」
あかりがうなずいた。
「どちらかだけだと、もう片方のイメージはしにくいもんね」
「ちょっと待って、ちょっと待って、ついて行けていないの私だけ?」
璃子の問いは、ほぼ独り言と化していた。
「手抜き、って言われちゃ手抜きかもしれないけどね」
環菜が恥ずかしそうに笑った。
「ま、これはこれでありかなって」
「3月のライブもそうするの?」
「その予定」
飯田はうなずいた。
「まあ、書いてみないとどうなるかはわからないけど」
「誰か、ツッコミ手伝って……」
璃子は天を仰いだ。
「5対1じゃ勝てる気がしない……」
「璃子、どうしたの?」
清香が声をかけた。
「ほら、雑炊できたよ。早くしないと私全部食べちゃうよ」
「食べる!」
璃子の頭が、勢いよく正面に戻ってきた。
「もう知らない! 私は雑炊食べることに集中する!」
箸をつかんでがつがつとかきこむ。
「ほおっ」
旨味をたっぷりふくんだお米を胃に流しこむと、ゆっくり息をはきだした。
体の中から口にかけて、ほかほかになる。
「うまっ」
もちろん、雑炊に夢中なのは璃子だけではない。
「いいなあ……雑炊って」
環菜がポツリと言った。
全員、こくっとうなずく。
それから――速やかに2口目に移ったのだった。
→→NEXT:22:05『温かい夜に、優しいエンドロールを』
最初のコメントを投稿しよう!