文化祭編~Ⅲ.当日・夜の部~

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 いくらおかわりがあると言っても、鍋にもいつかは終わりが来る。  相当量の野菜と肉を消費した後は、雑炊タイムである。  3台あるうちの1つは清香、1つは母が、1つは小崎が作る。 「そう言えばさ、」  くつくつ煮える米を眺めながら、あかりが言った。 「どうして今回の後夜祭、曲名を伏せたの?」 「曲名を伏せた?」 と璃子が言った。 「うん、何を歌うってはっきり書いてなかったじゃん」 「ん……? この話の流れは何か不安だぞ」  1人、腕組みをして考える璃子をよそに、飯田が答えた。 「聴いてくれている人たちにとっての、グッとくる曲を思い浮かべてほしかったんだよ」 「と言うと?」 「こちらからはっきり、○○って曲名を言ってもさ、それを知らない読者の方もいるかもしれないでしょ?」 と環菜が続けた。 「世代間のアレとか?」 「そうそう」 「やはり……」  1人、璃子がうなだれている。 「その割には、普段からパロディ、結構入れてくるけどね……」 「かっこいいって思ったり好きだと思う歌って、人によって色々じゃん?」 と悠希が言った。 「こっちで指定してもいいけど、どうせなら好きにシーンを思い浮かべてもらうのもありかなって。な?」  宇野が飯田を見た。 「実は、小崎と夏目の2人に頼んだのも、男性と女性のボーカルそれぞれが欲しかったからなんだ」 「なるほどね」  あかりがうなずいた。 「どちらかだけだと、もう片方のイメージはしにくいもんね」 「ちょっと待って、ちょっと待って、ついて行けていないの私だけ?」  璃子の問いは、ほぼ独り言と化していた。 「手抜き、って言われちゃ手抜きかもしれないけどね」  環菜が恥ずかしそうに笑った。 「ま、これはこれでありかなって」 「3月のライブもそうするの?」 「その予定」  飯田はうなずいた。 「まあ、書いてみないとどうなるかはわからないけど」 「誰か、ツッコミ手伝って……」  璃子は天を仰いだ。 「5対1じゃ勝てる気がしない……」 「璃子、どうしたの?」  清香が声をかけた。 「ほら、雑炊できたよ。早くしないと私全部食べちゃうよ」 「食べる!」  璃子の頭が、勢いよく正面に戻ってきた。 「もう知らない! 私は雑炊食べることに集中する!」  箸をつかんでがつがつとかきこむ。 「ほおっ」  旨味をたっぷりふくんだお米を胃に流しこむと、ゆっくり息をはきだした。  体の中から口にかけて、ほかほかになる。 「うまっ」  もちろん、雑炊に夢中なのは璃子だけではない。 「いいなあ……雑炊って」  環菜がポツリと言った。  全員、こくっとうなずく。  それから――速やかに2口目に移ったのだった。 →→NEXT:22:05『温かい夜に、優しいエンドロールを』
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