11月2週目

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・28歳の考えることとは 「じゃあ、ジェスチャーゲームしまーす」 と環菜は言った。 「わかったら当ててね」 「……」 「……」 「……」 「……」 「――いや、わかんないよ!」  たまりかねて璃子が声を上げた。 「え、わかんなかった?」 「小説でジェスチャーゲームはダメでしょ。私たちには見えるからいいかもしれないけど、読者の方はさっぱりよ」 「説明入れればいいじゃん」 「全く入ってなかったけどね。謎の沈黙しかなかったよ。4行無駄になったわ」 「それは私じゃなくて作者に言ってよ」  環菜はぶう、と文句を言った。  真面目に考え込んでいた悠希が、突然元気よく手を挙げた。 「わかった! 深川先生だ!」 「正解!」 「――ええ?」  清香が眉をひそめた。 「今のはどっちかって言うと、トカゲの動きじゃない?」 「この人には一体何が見えてるんだろ」  悠希が目を丸くして、隣の清香を見た。 「描写の説明が全くないから、言いたい放題だよ」 と璃子が小さくつぶやいた……。 「じゃあ、次行くぞ!」  環菜は次のジェスチャーを開始した。 「……」 「……」 「……」 「……」  さらなる沈黙。 「え、わかんない?」 「わかんない」 と悠希。 「それ……何か料理してる?」  これは璃子。 「とんかつ作ってる」  清香がスッと指を立てて回答した。 「すごい、正解」 「えええええ」  璃子と悠希がそろって驚いた。 「よくわかったね!」 「私には見えたんだ」  清香はゆっくり目を閉じて、教室の天井を仰いだ。 「環菜の手には豚ロース、前方は小麦粉に卵にパン粉、それからじゅうじゅうといい音をさせている油……」 「ちょっと、待って。あの人、何を言ってるの」 と璃子が言った。 「私にわかるわけがない」  悠希は真剣な表情でそう返したのだった。
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