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・28歳の考えることとは
「じゃあ、ジェスチャーゲームしまーす」
と環菜は言った。
「わかったら当ててね」
「……」
「……」
「……」
「……」
「――いや、わかんないよ!」
たまりかねて璃子が声を上げた。
「え、わかんなかった?」
「小説でジェスチャーゲームはダメでしょ。私たちには見えるからいいかもしれないけど、読者の方はさっぱりよ」
「説明入れればいいじゃん」
「全く入ってなかったけどね。謎の沈黙しかなかったよ。4行無駄になったわ」
「それは私じゃなくて作者に言ってよ」
環菜はぶう、と文句を言った。
真面目に考え込んでいた悠希が、突然元気よく手を挙げた。
「わかった! 深川先生だ!」
「正解!」
「――ええ?」
清香が眉をひそめた。
「今のはどっちかって言うと、トカゲの動きじゃない?」
「この人には一体何が見えてるんだろ」
悠希が目を丸くして、隣の清香を見た。
「描写の説明が全くないから、言いたい放題だよ」
と璃子が小さくつぶやいた……。
「じゃあ、次行くぞ!」
環菜は次のジェスチャーを開始した。
「……」
「……」
「……」
「……」
さらなる沈黙。
「え、わかんない?」
「わかんない」
と悠希。
「それ……何か料理してる?」
これは璃子。
「とんかつ作ってる」
清香がスッと指を立てて回答した。
「すごい、正解」
「えええええ」
璃子と悠希がそろって驚いた。
「よくわかったね!」
「私には見えたんだ」
清香はゆっくり目を閉じて、教室の天井を仰いだ。
「環菜の手には豚ロース、前方は小麦粉に卵にパン粉、それからじゅうじゅうといい音をさせている油……」
「ちょっと、待って。あの人、何を言ってるの」
と璃子が言った。
「私にわかるわけがない」
悠希は真剣な表情でそう返したのだった。
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