11月2週目

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「――でも、やっぱり決め手はすでにキャベツの千切りが出来ていたところだよね」  清香は無表情の友人たちをすっかり放置して、とんかつの描写にいそしんでいる。 「わかった。あんた、もう、お腹空いて仕方ないんでしょ」  環菜が手を挙げて、制止した。 「あ、わかった?」  清香は頭をかいた。 「どうしよう、次の授業の間に駅前のスーパー行ってこようかな」  次は3時間目。日本史の授業。  つまり、文系コースの環菜、璃子、悠希は授業があるが、理系コースの清香は空きというわけだ。 「もう、本当好きにしたらいいと思う」  環菜は心の底からそう言った。 「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」  清香は立ち上がった。 「昼休みはいつものところでいいでしょ?」 と悠希が言った。 「うん、時間になったら私も行く」  清香はそう返して――突如ダッシュで教室から出て行った。 「そんなに空いたか」  璃子がぽかん、と口を開けた。 「環菜、食べ物を連想させるようなことしちゃだめだって」  悠希が頬杖をついて言った。 「うん、そうだ……いや、それ結構難しくない?」  環菜は眉をひそめた。 「清香の頭の中が、そもそも食べることでいっぱいなんだ。私のせいじゃないでしょ」 「ううん、まあ……そう言われればねえ」  キュッと眉を寄せて考え込む悠希であった。 「まあ、そんなくだらないこと、真剣に考えなくてもいいんじゃない?」  璃子が、悠希の肩にポン、と手を置いた。 「友達のことくだらないって言い切ったよ、この人」  環菜は思わずつぶやいた。 ――あと数分で、本鈴がなる。  ふと、前方の宇野の席に目を止めた。  時間の5分前に来るような男ではない。  席は空いていた。
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