11月2週目

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「上はできたけど、下はどうするの」 と璃子が言った。 「ブランケットで隠したって、ヒラヒラしちゃうんじゃ、まるで幽霊じゃない」 「宇野を殺すわけにはいかないしなあ」  飯田がしれっとひどいことを言っている。 「あ、そうだ」  悠希がはっとした。 「ねえ、傘は?」 「傘?」 「うん、教室の前に、ビニール傘あるでしょ。あれを2本椅子に立てかけて、上履きにはかせるの。で、ブランケットをかければいいんじゃない?」 「悠希、頭いい」  環菜が拍手をした。 「ビニール傘、ねえ……」  1人、飯田が考えている。 「なあ、折りたたみ傘持ってないか?」 「折りたたみ?」 と環菜が言った。 「あるよ、1本なら」 「2本も3本も持ってたらおかしいでしょ」  璃子が自分の席に傘を取りに行きながら言った。 「何で折りたたみ?」  悠希が尋ねた。 「たぶん、ビニール傘じゃ、長すぎて不自然な気がする」 と飯田は言った。 「あいつ、そんなに足長くない」  環菜と悠希が吹きだした。 「ひ、ひどいな」  そう言いつつ、自分たちもケラケラ笑っているのだから、同じようなものである。  私物を総動員した結果、見事な宇野人形が完成した。  パーカーの上に上着を着て、室内なのになぜかマフラーと手袋までしている。  フードからは結衣提供の髪が見えていた。一応は男性用のそれである。 「これは想像以上!」  環菜は両手をあげて喜んだ。 「宇野に送ってあげよう」  悠希がさっそく写真を撮っている。 「――環菜、環菜!」  教室の入り口あたりで、結衣が呼んでいる。  声を出さずに、口パクだけで伝えてくる。 「先生、きた」 「うわ、まずい」  本鈴がなった。急いで自席に戻る。 「おい、急げ」  飯田が、まだ写真を撮っている悠希をうながす。 「見つかったら意味ないんだから」 「ちょっと待って――OK!」  悠希もその場を離れる。 「あっ」  環菜はふと思いついた。  急いでロッカーに走り、また宇野の席に戻る。ちょちょっと細工をして、自席につく。  間一髪、逢坂菜月が教室に入ってきた。 →→NEXT:宇野大仏、日本史Bを受ける
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