11月2週目

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・宇野大仏、日本史Bを受ける 「一昨日配ったプリント、出しておいて」  生徒に指示を出しておいて、その間に名簿を開き、出欠を確認する。  ざっと見て、空いている席があれば、その生徒のことを聞く。 「……石川は今日休み?」 「風邪ひいた、らしい、という話を聞きました」 と誰かが答える。 「そう。昨日はいたの?」 「昨日はいました」  とまあ、こんな感じである。 「了解」  菜月は名簿を閉じた。 「じゃあ、この前の続きね」 「先生、プリントない」  璃子の席の隣の男子生徒が声を上げた。 「今日は予備持ってきてないよ」  菜月は顔をしかめた。 「とりあえず今日はノートかなんかにメモして、あとでプリントにまとめなさい」 「プリント自体をなくしたって言ったら、怒られるよな」  男子生徒が、こそこそ璃子に話しかけてきた。 「言ってみたらいいんじゃない」 と璃子は返してやった。 「……嫌だよ」  男子生徒は口をとがらせて、もう1度璃子に顔を向けた。 「ごめん野沢、ルーズリーフ1枚ちょうだい」  璃子はため息交じりに、自分のかばんを開けた。 「あんた、何も持ってきてないのね」 「いやあ、申し訳ない」  どう見ても、申し訳ないと思っている顔ではない。  璃子はサッサとルーズリーフを1枚渡すと、前方に視線を戻した。 ――先生、気づかないのかな。  文系コースのみの授業は、該当する生徒が2クラス分集まって、授業を受ける。4組の璃子たちであれば、3組の生徒と合同で受ける、という具合だ。  だから、席がいつもと違う。  璃子の席は後ろの方、ここからなら、環菜も悠希も、飯田も見える。  菜月は授業を進めている。璃子はペンをくるくる回しながら、様子をうかがった。  悠希が目に見えてそわそわしている。  髪をいじったり、体が不自然に揺れたり、と思ったらいきなりうつむいて、肩を震わせ始めた。 ――あの子、1人で笑ってんの?  璃子は内心、ぎょっとした。あれじゃ、ばれちゃう!  飯田に目を移すと、さすがというべきか、平然と授業を受けている。 ――うーん、この流れは。  何となく嫌な予感がした。  いや、でもしかし、そんなわかりやすい展開なんて……。  璃子はチラッと、環菜を見た。
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