11月2週目

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 もぞもぞ、そわそわ、悠希の比ではない。  時々背伸びをして、宇野人形の様子をうかがっている。 ――わかりやすっ! 発案者が1番落ち着きなくてどうすんの!  ふいに、環菜が後ろを向いた。  璃子と目を合わせると、にやにやしながら前の宇野人形を指さす。ばれてない、とでも言いたいのだろうか。 「バカ! 前向きなさいって!」  声は出さずに、璃子は前方をぐいぐい指さした。  菜月がふっと黒板から目を離す。環菜と璃子が同時にポーカーフェイスに戻った。 「……何してんの」  プリントをなくした男子生徒が、こっそり聞いてきた。 「ちょっと今、話しかけないで」  璃子は少し息を荒くして言った。 「ここ1番の緊張感をもって、この場を耐えてるんだから」 「?」  この説明でわかるわけがない。 「――というわけで、」  璃子の緊張感はおかまいなく、菜月は授業を進めていく。 「1枚目に戻ると、話がつながるってわけなんだけど。その前に、」  菜月は教室を見回した。 「生島、」 「はひ、」  いきなり呼ばれて、環菜は変な声を出してしまった。 ――環菜、耐えて!  心臓の高鳴る璃子、同時にギクッとしてしまった悠希、平然とした表情であるが実は冷や汗を流している飯田。 「宇野、起こしてくれない?」 と菜月は言った。 ――ばれてるー!  3人同時に、表情がカチーン、と固まってしまった。  いや、そんなこと、重々わかっていたのだけれど。 「は、へ、宇野ですか」  環菜は薄ら笑いを浮かべて言った。 「お、起こすとは」 「私が教室入るときから、ずっと寝てるんだもん。起こしてあげてよ」 「あ、へえ」 「……生島?」  菜月がにっこり笑った。 「起こしてくれないんなら、私が」  手の中にチョークを転がす。 「これ投げて、起こしてあげてもいいけど。それじゃ、あまりに可哀想でしょ? 怪我しちゃうかもしれないし」 「あー、いや!」  環菜はそろそろと腰を浮かすと、ちょんちょん、と宇野人形の背中をつついた。 「あー、先生、あれですね、起きませんね宇野君。やはり、先生がビシッと起こして注意してあげた方がいいのでは?」
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