11月2週目

13/21
前へ
/397ページ
次へ
「……」  菜月はじとっと環菜を見た。 ――何か企んでる顔だな……。  宇野の席の横まで来て、ブレザーの背中に視線を落とす。  まさか本物? いや、そんなわけがない。  上履きに足首がない。  手を伸ばして触ってみた。ふわっとしている。 「……っ!」  菜月は思い切って、パーカーのフードをめくった。 「ぷふっ」  素の笑いがこみあげてきて、菜月は顔を背けた。 ――大仏の頭が、横向きに据えられていたのである。  教育実習生の高橋先生のあがり症を治すのに使った、アレだ。  ちょうど、宇野大仏が横を向いて机に伏している図となる。 「ふ、ふふ……ぐふっ」  こらえようとすればするほど、変な笑いになる。 「先生、笑いたいときは思いっきり笑った方がいいんですよ」  環菜がニヤニヤして言った。  近くのクラスメイトが宇野大仏をのぞきこみ、笑い出す。それが、波紋のようにどんどん広がっていった。 「ちょっと、もう――勘弁してよ」  さっきの脅しの勢いはどこへやら、菜月は顔を真っ赤にして、目をぬぐった。みんなゲラゲラ笑っている。 「とりあえず、宇野は遅刻ね」 「そうです、そうです」  環菜としては、元々宇野をかばうつもりであったわけではない。  菜月は教壇に戻った。 「授業、戻るよ。――宇野はそのままにしておいて。撮影タイムはあとで」  しかし、そのままにしておいたのがよくなかった。  時折、誰かが視界に入る大仏に我慢できず、吹きだす。  結果、授業は順調に進んだのだが、ほとんど内容が頭に入って来なかったのである。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加