11月2週目

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・体調不良にはご注意 「あれ……だめだって」  スマホを眺めながら、環菜がつぶやいた。  璃子と清香の視線がそろって向く。 「だめ? 何が」 と璃子が聞いた。 「環菜の頭が?」  清香がしれっとひどいことを混ぜてくる。 「うん、そう――いや、違うよ」  うっかり流れで肯定してしまった環菜は、あわてて首を振った。 「悠希だよ」  そう言って、スマホを振ってみせる。 「悠希の頭?」 「だから何で頭ばっかりにこだわるの」 「悠希は頭おかしくなったりしないって」  璃子が真剣に清香を諭す。 「待って、何で私のときはフォローがなかったんだ?」  ついつい、気になってしまう環菜であった。 「そうじゃなくって」  環菜はスマホを振ってみせた。 「悠希、やっぱり今日休むって」 「あら」 「あらら」  2人そろって、自分のスマホを確認する。  昨日から、少し風邪をひいた様子の悠希であったが、今朝熱を測ったら37度を超えていたとのことである。 「大丈夫かなあ」 と璃子が言った。 「嫌だねえ、風邪の季節だよ」  ふと、環菜の頭に大事なことが思い浮かんだ。 「あっ……インフルの予防接種受けておいた方がいいかな」 「インフルか、」  璃子がつられて声をもらした。 「今年は受験あるしね、受けたほうがいいよね」 「うちは毎年、家族全員で受けてるよ。来週、行くんだ」 と清香が言った。 「へえ、準備いいのね」 「だって、飲食店がインフルで休業とか最悪じゃん」 「確かに」  環菜と璃子がポン、と手をたたいた。  ~*~*~  翌日、無事に回復した悠希は、再び学校に姿を現した。  インフルエンザの感染もなく、普通の風邪であったようだ。 「私も、予防接種受けるよ」 と悠希は言った。 「今は病み上がりだから、再来週末に。もう予約したよ」 「やはり、受けるべきか……」  環菜はむむ、とうなりながら紙パックのコーヒー牛乳を手にする。  半透明のストローが、するすると茶色に上がっていく。 「予約、しないとね」 と璃子が言った。 「うん……」  環菜はスマホで病院を探しながら、ぼんやりと答えた。 「?」  ふと、その顔がハッとする。 「ちょっと、ちょっと璃子、」  立ち上がり、璃子の隣に並んでスマホの画面を見せた。  清香と悠希には見えないようにする。 「これ、見てよ」  環菜はもう片方の手の小指を立てて、該当分を示した。  一読した璃子が、ぽかんと口を開けた。 「あ……」  当たり前と言えば当たり前だ。  しかし、2人ともすっかり頭になかったのである。 ――未成年の予防接種は、原則保護者の同伴が必要です。 →→NEXT: 環菜の保護者
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