11月2週目

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・環菜の保護者 「では、生島環菜さん」  病院の受付の女性がそう言った。 「こちらの問診票を書いてお待ちください」  バインダーに挟んだ紙の上には、一緒に体温計も乗せてある。 「それから、お熱も計ってください」  ボールペンと体温計を落とさないように気をつけながら受け取る。  そのまま、待合室のソファに戻った。 「はい、問診票と体温計です」  ノブモトは、座っている環菜に差し出した。 「どうも」  環菜はそれを受け取る。  ノブモトは、環菜の隣に腰を下ろした。  そのまま、特に何をするでもなく、ぼんやり前方を見ている。 「……」  環菜は体温を計りながら、問診票の記入を始めた。  保護者の同伴が必要とは、とんだ落とし穴だった。  しかし、考えてみれば当たり前だろう。  保護者もおらず、同意も認められないのに18歳の高校生が予防接種を受けたいと言っても受けられるはずがない。  そこで、環菜はノブモトに保護者役を頼んだ。  一緒に来なくても、環菜の年齢なら保護者の同意書があればそれでも受けることは可能だ。  しかし、せっかくなら直接来てもらって――何か少し話が出来ればと考えたのである。  体温計が、ピピッとなった。 「36.3度」  問題なしの平熱である。 「――書けましたか?」  環菜の手が止まったのに気付いて、ノブモトが声をかけた。 「うん」 「渡してきますよ」 「あ、いや――うん、ありがとう」  ノブモトはバインダーとペンと体温計を持って、受付に行き――すぐに戻ってきた。 「付き合わせて、悪かったね」  ノブモトが座るのを待って、環菜はそう言った。 「いいえ、とんでもありませんよ」  ノブモトは毎度おなじみの笑みを浮かべて返した。 「むしろ、ようやくかって気持ちです」 「?」 「まさか、上半期あんなに出番がないとは思いませんでした……」  ノブモトは微笑を崩さないまま、遠い目をしたのだった。 「まあ、何とかやって来られたんだって」  環菜は軽く笑った。
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