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「初めて会ったとき、もし私たちに何かあったら、保護者として連絡が行くのはノブモトだって言ってたよね」
「言いましたねえ」
「半年以上たって、初めて保護者役になるとは」
「そちらが頼ってくれなかったんじゃないですか」
「だから、必要なかったんだって。それに、」
そこまで言って、環菜はいったん言葉を切った。
「それに……あの時は、まだいろいろ余裕がなかったんだ」
「余裕、ですか」
「当たり前じゃん、いきなり体と周りの環境だけ高校生に戻されてさ。あんたを警察に突き出さなかっただけ、私たちに感謝してほしいくらいだよ」
「いえ、まあ……確かにその件につきましては……」
と言いかけて、ノブモトは『ん?』と首を傾げた。
「いや、お2人とも最初、警察に行こうとしてましたよね」
「でも、結局行かなかったじゃん」
環菜がぴしゃりと黙らせた。
それから、ほっと息をはきだす。
「あれから半年経ってね、いろんなこと思ったり考えたりしたよ」
「そうですか」
単調な返事だ。
「楽しい、ですか?」
「楽しい、よ」
「なのに、まだ28歳に戻ろうと?」
環菜はじろり、とノブモトを横目で見た。
「あんた、二言目にはそれだよね。もう少し他にないの?」
「でも、私の狙いはこれしかありませんから」
環菜は、肩をすくめた。
「それさ……何歳くらいを想定しているの」
ノブモトが、視線だけ環菜に返した。
その目元は、知っている彼のそれより、しわが多い。
髪も、半分近くが白かった。
「そうですね……40後半、といったところでしょうか」
「今日だけ、わざと年取った姿になってるの」
「そうですよ」
普段のノブモトは、環菜からすると30半ばくらいに見える。
「何か……違和感あるんだが、ないんだか」
環菜はしげしげとノブモトを眺めて言った。
「それは、どういう意味ですか」
ノブモトが顔をしかめて、身を引く。
「見慣れてないから、変な感じはするけど、そもそもあんた若々しい感じでもないし、これはこれでって気もする」
「ふむ」
ノブモトは小さくうなずいた。
「あれ今、さりげなく失礼なこと言いませんでしたか……?」
環菜は何も答えず、正面に向き直った。
「あ……無視……」
ノブモトが小さく言ったが、環菜には効かない。
「姿見は、自由に変えられるんだね」
また、話を変える。
「そうですね」
とノブモトが答えた。
「あの見た目のままじゃ、生島さんと親子はいくらなんでも無理があるでしょう?」
「確かに」
「これなら、どこからどう見ても親子に見えますよ」
ただし、『黙っていれば』の条件付きである。
会話が明らかに親子のそれではない。
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