10月1週目

4/21

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/397ページ
  ・ハリセンと僕らの方針      3時間目の授業が終わった。    璃子は、環菜の席に目をやった。――机に伏しているのが見える。 「やれやれ」  立ちあがって、環菜のもとに行った。 「――ちょっと、環菜」 と声をかける。 「ぐう」 と環菜が返事をした。 「ぐうじゃないよ!」  突然、璃子がハリセンを出して、環菜をひっぱたいた。環菜の体ががばっと跳ね起きた。 「いたっ!」  教室中に響き渡る大声。 「何! 何すんの!」 「寝てんじゃないよ」  璃子は間髪入れずに言った。 「秋編初っ端からアホなこと騒いだ上に、」 「いや、それはそれとして」 「それはそれとしない」 「ちょっと待って、いやそうじゃなくって」  環菜は両手をぶんぶん振った。 「そうじゃないなら、何」 「そのハリセン、どうしたの!」  璃子は目を瞬いて、それから手元のハリセンを見た。 「これ? 昨日クニモトがくれた。宅急便で」 「クニモトが?」 「そう。物語も後半、折り返し地点を過ぎたから、これからますます精進していってほしいって」 「精進する方向が間違ってるでしょうが」  環菜は思わず身震いした。 「しかもよりによって、1番渡しちゃいけない人に……」  璃子が1歩前に、ずいっと進み出た。 「だったら、叩かれるようなことしなきゃいいだけだと思うけどね、私は」 「はい、おっしゃる通りです、すみませんでした」  環菜は小さく丸まってしまった。 「まあ、いいや」  璃子はふうっと、息をついた。 「?」  環菜は頭を抱えた腕のすき間から、そろそろ様子をうかがった。 「――ちょっと、来て」  璃子はくいっと指を立てた。 「来て、って、どこに?」 と言いつつ、環菜は立ち上がる。 「いいから」  さっさと歩き出した璃子に、あわててついていく。 「……飯田、」  1人で席に座っている。璃子はその背中に声をかけた。 「え、野沢?」  飯田は振り返って言った。 「そう」 「俺?」 「そう」  環菜は何も言わず、璃子を見ている。 「ちょっと、来て。話がある」 「俺に?」 「うん。5分で終わるから」 「――私にも、それくらい説明してくれりゃいいのに」  隣で文句を言う環菜には特に構わず、またもや璃子はさっさと歩き出してしまった。  その後ろを、環菜と飯田がひょこひょこついていく。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加