10月1週目

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「ねえ、環菜」 と璃子は続けた。 「何もできないまま、ずっと時間だけ流れていって、28歳に戻ったとき、きっと環菜は後悔すると思うよ」 「……」 「やり直さないんでしょ? 28歳にまた戻るんでしょ?」 「……うん」 「時間は止まっても戻ってもくれないんでしょ?」 「……うん」  璃子の目は、環菜を離してくれない。 「――賛成」  ふいに飯田が言った。  環菜と璃子がそちらを見る。ひょい、と片手を挙げていた。 「俺は、野沢の考えに賛成」  もう1度繰り返した。 「生島は、何にためらってるの?」 「ためらっているというよりは……」  環菜は首をかしげながら言った。 「あまりおせっかいすぎるのも、どうかなって……」 「で、生島はどうしたいの」  飯田が、環菜をさえぎるように言った。 「生島は、夏目と小崎にどうなってほしいの、自分はどうしたいの」  環菜は眉間にしわを寄せた。  そのまま、飯田を見て、それから璃子を見る。 「私を見てどうすんの」 と璃子が言った。 「あんたがどうしたいか聞かれてんでしょ」 「確かに、うまくいくとは限らないかもな」 と飯田が言った。 「でも、それは本当の高校時代だって、社会人の今だって変わらないだろ?」 ――それが正解かどうかはわからない。  でもそれでうまくやって来られていることは、長い月日が教えてくれている。 「……」  もう、ずいぶん遠い昔のように思える、あの四月のXデーの前日の飲みを、環菜は思い出していた。 ――そして同時に、清香と小崎が疎遠になった、という結果も招いている。  どちらが正しいなんて話ではない。しかし、友人がつらい思いをしなくていいのならその方がいいに決まっている。  一方、おせっかいだってこともわかっている。最後を決めるのは本人だってことは当たり前だ。
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