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「ねえ、それ、どっから出てきてんの!」
環菜は、自らをかばうように両手を前に突き出し、後ずさりした。
「何、四次元ポケット? どういう仕組みで隠れてんの? ゲームのアイテム的な感じ?」
「それをあんたに教える必要はない」
璃子がハリセンを振りかぶった。
環菜が顔をかばうように腕を上にかざして――。
「――ねえ、英語の小テスト、わかった?」
「全然だめだった」
「ねー、わかんなかったよね」
見知らぬ2年生の女子生徒が3人、階段を駆け下りてきた。
「……」
「……」
「……」
璃子はハリセンをサッと隠し、環菜は腕をほどいて、何事もなかったような顔をし、飯田は――特に何も変える必要はなかった。
2年生はキャッキャ盛り上がりながら、挙動不審な3年生など目にも留めないで、階段を下りて行ってしまった。
「……あー、」
姿が見えなくなったのを確認して、環菜が間抜けた声を出した。
「あれだ、うん。――何の話だっけ?」
「ええと……清香と小崎の話」
璃子が耳元の髪をくるくるいじりながら言った。
「だいぶ、さかのぼるけどな」
と飯田が言った。
「だよね、で、それで」
環菜が話を続けようとしたとき――チャイムが鳴った。
「あ、まずい!」
「戻らなきゃ」
「話、まとまってないけど」
階段を駆け上がり、廊下を走る。
「あの、つまり、あれだ」
先頭を走っていた環菜はちょこちょこ振り返りながら言った。
「とりあえず、私たちで、清香と話してみる。それまで、飯田と小崎は待機!」
「ずいぶん雑にまとめたな、おい!」
と飯田が言った。
「だって――授業始まっちゃうもん」
環菜、すでに息が上がっている。
「ほら、さっさと走りなさいって」
璃子が環菜を追い抜いて――カーディガンのすそを引っ張りだした。
「やめて、伸びちゃう伸びちゃう」
脇のあたりをつかまれているせいで、体が横に向く。
「じゃあ、走りなさいよ」
「わかったわかった走るから――これじゃ、欽ちゃん走りになっちゃう」
環菜は横向きに走りながら、教室に転がり込んだのだった。
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