10月1週目

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「ねえ、それ、どっから出てきてんの!」  環菜は、自らをかばうように両手を前に突き出し、後ずさりした。 「何、四次元ポケット? どういう仕組みで隠れてんの? ゲームのアイテム的な感じ?」 「それをあんたに教える必要はない」  璃子がハリセンを振りかぶった。  環菜が顔をかばうように腕を上にかざして――。 「――ねえ、英語の小テスト、わかった?」 「全然だめだった」 「ねー、わかんなかったよね」  見知らぬ2年生の女子生徒が3人、階段を駆け下りてきた。 「……」 「……」 「……」  璃子はハリセンをサッと隠し、環菜は腕をほどいて、何事もなかったような顔をし、飯田は――特に何も変える必要はなかった。  2年生はキャッキャ盛り上がりながら、挙動不審な3年生など目にも留めないで、階段を下りて行ってしまった。 「……あー、」  姿が見えなくなったのを確認して、環菜が間抜けた声を出した。 「あれだ、うん。――何の話だっけ?」 「ええと……清香と小崎の話」  璃子が耳元の髪をくるくるいじりながら言った。 「だいぶ、さかのぼるけどな」 と飯田が言った。 「だよね、で、それで」  環菜が話を続けようとしたとき――チャイムが鳴った。 「あ、まずい!」 「戻らなきゃ」 「話、まとまってないけど」  階段を駆け上がり、廊下を走る。 「あの、つまり、あれだ」  先頭を走っていた環菜はちょこちょこ振り返りながら言った。 「とりあえず、私たちで、清香と話してみる。それまで、飯田と小崎は待機!」 「ずいぶん雑にまとめたな、おい!」 と飯田が言った。 「だって――授業始まっちゃうもん」  環菜、すでに息が上がっている。 「ほら、さっさと走りなさいって」  璃子が環菜を追い抜いて――カーディガンのすそを引っ張りだした。 「やめて、伸びちゃう伸びちゃう」  脇のあたりをつかまれているせいで、体が横に向く。 「じゃあ、走りなさいよ」 「わかったわかった走るから――これじゃ、欽ちゃん走りになっちゃう」  環菜は横向きに走りながら、教室に転がり込んだのだった。 →→NEXT:決壊
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