零話

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「えっと、福間さんコレは?」 「はあ」 長い黒髪を一つに纏めた福間さんに溜め息をつかれるのが徐々に怖くなっていく。 「時間がないから一回で覚えて。覚えれないならメモ取って。それでこれ聞くの3回目だからいい加減覚えて」 作業が複雑で一気に覚えれない。 さっき教えた、と言われれば、よくよく思い出すと教えて貰った事を思い出す。 パソコンに入力する作業に並行して、電話で確認したり、紙への手書き作業もある。 事務というのはもっとゆったりと心に余裕ある仕事だと思っていたのに、全然そんな事はなかった。 「これは10時まで、こっちは11時までだから手を止めないで。間に合わなくなる」 そんな事言われてもあと何分しかない、と焦れば焦るほどに何度もミスをして、そこを指摘されてしまった。 「ほんと間に合わないから、今日は見てて、ね?」 「はい、すみません」 福間さんはそう言うと澱みのない川の流れのように、一つも手を止める事なく私の10倍は早い作業で仕事をこなしていた。
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