零話

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配属されたフロアに入るとすれ違う社員へ挨拶をするのだが、通り過ぎる度にクスクス笑われている気がする。 制服は少し可愛い目のデザイン。ペールピンクのブラウスに同色のリボン。私が着たらまるで豚。 だから私には全く似合ってない。 「制服が可哀想」 わかってる。誰に言われなくても自分が一番分かっている。 「おはようございます」 「遅い!」 自席に着けば先輩の橋元(はしもと)さんから怒られる。遅いとは言われるけど、それでも始業30分前。昨日は20分前で怒られたから今日はもう少し早くと心掛けていたのに寝坊した。だけどそれでも30分前なのに、何分前なら許されるのだろうか分からない。 「野田さんは今日から福間(ふくま)さんの仕事を引き継いで下さい」 「は、はい」 いまだ新人研修のようなものも行われていない中、訳も分からず電話を取らされたり、コピーをしたりしていたので、やっと本格的に仕事が出来るのだと私は純粋に喜んだ。 「福間さん、宜しくお願いします」 福間さんの席へ行き、頭を下げる。 「1週間しかないから、死ぬ気で覚えて下さい」 「はい」 そう返事はしたけれど、どうして期限が1週間なのかという事を私は分かっていなかった。
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