ひかりやさんちの長介くん

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ひかりやさんちの長介くん

 ひかりやさん()長介(ちょうすけ)くん、今日は、近所のお○め屋さんに、お○めの食べ比べ会に来ていました。  ……って、あら、嫌だッ!  何で放送禁止用語的な扱いになってるんでしょう!   近所の『おこめ』屋さんに、『おこめ』の食べ比べ会に来ただけなのに……。 「おっちゃん、来たよ~!」 「お~! 長介! いらっしゃい! 美味しい新米入ってるから、試食してってね~♪」  三種類の新米の試食が用意されていました。お客さんには、先入観を持たずに試食してもらおうと、テーブルの上には、A、B、Cと書かれた(ふだ)が立てられてあり、それぞれに炊飯ジャーが置かれていました。お客さんが試食に来られたら、(あたた)かいごはんを、チョロッと試食皿に盛って下さるというシステムになっていました。  長介くんは、早速、Aのごはんを試食させてもらいました。 「うわ~、おっちゃん、このごはん、つやっとしていて、粘りも甘みもあって、美味しいね~!」 「そうかい! よかった!」 「おっちゃん、このごはんは?」 「コシヒカリや、長介!」 「次、行ってみよう!」  続いて、長介くんは、Bのごはんを試食させてもらいました。 「うわ~、このごはん、ねばりがあって、やわらかくって、美味しいね~!」 「そう! よかった!」 「おっちゃん、このごはんは?」 「ヒノヒカリや、長介!」 「次、行ってみよう!」  そして、長介くんは、ラストCのごはんを試食させてもらいました。 「うわ~! このごはんは、あっさりとしたねばりで、美味しいね~!」 「そう! よかった! ありがとよ!」 「おっちゃん、このごはんは?」 「キヌヒカリや、長介!」 「あ、これ、キヌヒカリって言うんやね~」 「そうやで~」 「おっちゃん、よく似た名前で、『キヌムスメ』、って言うのもあるんやろ~?」 「おぉ~、よう~知ってるな~、長介!」 「『キヌムスメ』の特徴って、『まだ、(せい)に目覚めていない、ウブな娘』な感じなんやろ?」 「……って、そら~、『キヌムスメ』やなくて、『きむすめ(生娘)』やがな!」 「あ、そっか!」 「もう~、おませやな~!」 「だめだこりゃ!」  A、B、C、三種類のごはんを試食させてもらって、おバカな会話をおっちゃんと一通りした長介くんは、お得意様だけに配られていた『ご試食三点セット引換券』を、おこめ屋さんのおばちゃんに渡しました。  すると、おばちゃんは、A、B、Cの各おこめ二合(にごう)ずつ、計六合のおこめを長介くんに渡してくれました。 「おばちゃん、ありがとう!」 「どういたしまして! また、来てね~♪」  おばちゃんは、『おい、長介、今日は試食、食うだけ食うて、セットもらうだけもろて、おこめ()うて帰れへんのんかいッ!』、という気持ちをひた隠しにした笑顔で、長介くんに、 「バイバ~イ♪」  と、手を振り、愛想(あいそ)()()きました。  長介くんは、そんな笑顔の裏側を読み取ったのか、 「おっちゃん、おばちゃん、うち、おこめ、もうちょっと残ってるみたいやから、また、来週ぐらいに買いに来ます~……」  と、大人の事情に配慮してみせました。  おっちゃんもおばちゃんも、頭の中では、来週の売上を計上し、算盤(そろばん)(はじ)いたのか、くったくのない柔和(にゅうわ)な笑顔で、 「また、来てや~♪」 「また、来てね~♪」  と、見送ってくれました。 「また、来週~ッッッ!!!」  長介くんは、元気よく、おこめ屋さんのおっちゃんとおばちゃんに、右手を、「オイッス~!」、な感じで挙げて挨拶をし、おこめ屋さんを(あと)にしました。  家に帰る途中、公園の前を通ると、近所の子供たちが、公園で、輪になって、手拍子(てびょうし)や「がんばれ~!」の声援を送ったりしながら、何やら盛り上がっていました。  長介くんは、気になったので近づいてみると、年下の青島くんが、 「レインボーブリッジ!」  って言いながら、ブリッジをして、準備運動をしていました。  長介くんは、輪に加わっていた、すみれちゃんと雪乃(ゆきの)ちゃんに、 「何してるの?」  と、(たず)ねました。 「みんなでね、リンボーダンスしてるの~」  と、すみれちゃんが答えてくれました。 「長介くんもやってみなよ!」  と、雪乃ちゃんが気楽に誘ってくれました。すると、長介くんは、 「わしゃ~、君らより年齢(とし)とっとるもんで、無理でごぜえますだ~」  と、急にジジ(くさ)く返事をして、リンボーダンスを回避しました。  そうこうしているうちに、青島くんの順番になりました。 「Let's リンボーッ!」 「Yeah~ッ!」 「ホイッ! ホイッ! ホイッ! ホイッ!」 「あ~おッしま! ソ~レッ! あ~おッしま!」  と、みんなの手拍子と青島コールが始まりました。青島くんは、みんなの声援に答えて、かなりいい感じのブリッジな体勢でのけ()り、映画『マトリックス』の、キアヌ・リーヴスを思わせる、いいところまで行きました。  がッ! ー グキッ! ー 「あッ!」  青島くんは、ギックリ腰になってしまいました! 「青島~~~ッッッ!!!」  長介くんが駆け寄ると、 「『レインボーブリッジ、封鎖出来ません!』、……じゃなくて、『リンボーダンス、クリア出来ません!』」  と、悔しがっていました。 「青島く~んッ!」  と、すみれちゃんも駆け寄り、 「青島さ~んッ!」  と、雪乃ちゃんも駆け寄って来ました。長介くん、すみれちゃん、雪乃ちゃんの三人で、青島くんをそっと起こしました。 「イテテテテッ!」  青島くんは、かなり痛そうでした。すると、そこへ、 「青島~~~ッッッ!!! しっかりしろ~ッ! 青島~~~ッッッ!!!」  と、室井(むろい)くんが、自分のおばあちゃんが買い物に行くときに使っている、大人用の三輪車で、迎えに来てくれました。  三輪車の後ろカゴに乗っけられ、しかめっ(つら)で、イタそうに運ばれて行く青島くんを、みんなで敬礼して見送りました。 ~エンディング曲~  ♪Laン、La、La、Laン、愛せ、誰か、今夜~、Laン、La、La、Laン、愛せ、誰か、for~、ラ~~~イフ……♪
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