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ため息が出そうになるのをゴクリと飲み込む。
ただでさえ庭羽野くんに担がれてすごく目立ったのに、生徒会の会計である金織くんとまたグラウンドに戻るなんて。
自分が社会から消える未来しか見えない。
顔を隠そうにも出来ないし、シャツを脱いで顔に被せようかな。
上半身裸の変質者になってそれこそ日本追放だ。
もんもんと頭の中で考え込んでいたら金織くんのがクルリと後ろを振り返った。
「なに一人で唸ってるの!あ…もしかして、痛い?」
走るペースを落として立ち止まった。
視線は包帯を巻いた右手首にある。ジッと見つめられ、なぜかむず痒い。
「これくらい痛くないですよ、大丈夫です。」
その顔があまりにも悲しそうで俺は首を横に振った。
どうしたんだろう、様子がおかしい。
「…痛いものは痛いんだよ。」
金織くんがそっと怪我をしている方の手を取って包帯を撫でる。触れる手がすごく、すごく優しかった。
そこで悟った。
痛いことが嫌い、と言っていた金織くんは単純な理由ではなくて、多分もっと深くて悲しい理由なのではないか、と。
暗いところも苦手だと言っていたのを思い出す。
「金織くんは痛いですか?」
「え、俺…?」
「はい。」
「俺は、痛くないけど…」
何言ってるの?と口にはしないものの、目が困惑を表していた。
「傷は治ったとしても、その痛みって一生忘れないですよね。」
どうか、俺は金織くんの情報を知りすぎませんように。何があった、とか言いませんように。
深く知ることで俺がどうこうできるものじゃないのはわかってるんだし。
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