唐揚げ

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視点戻── 数日が経ち、俺は喜びと感動で思わず保健室独特の背もたれがない丸い椅子から立ち上がった。 「完全に復活だな。」 「…ということは…」 「治ってるよ。」 木戸崎先輩が呆れた顔で俺を見上げる。 やっと。やっと治った。ついに解禁。 先輩の世話をして、時々厨房に顔を出して。 許可を取ったから、と言って夜になったら金織くんや庭羽野くんが部屋に来て手当をしてくれた。 2人が一緒に来た時は驚いたけれど、それより2人のお互いを見る顔が怖かった。あの謎の気まずさはもう経験したくない。 両手を握ったり開いたりと違和感がないことを確認した。 約1週間慣れないことをしたせいで厨房が恋しくなっている気がする。 やっぱり俺は料理が好きなんだなって自覚できた。 今は料理がしたくてうずうずしている。 「おい。少しは俺とずっと一緒に居れないこと悲しがれよ。」 「いやもう十分です。」 「なんだよ、寂しいな。」 「それじゃあ昼の仕込みしてきていいですか。」 朝は土佐谷くん達に任せちゃったから今すぐにでも残りの分があったら手伝いたい。 本当だったら朝から怪我の具合を見てもらって厨房に直行しようとしていたのに、先輩がぐっすり部屋で寝ていて起こすのにだいぶ時間がかかった。なぜ俺が保健室に連れていかないといけないのか。 でも、ありがとうございました、と手当のことも含め俺に仕事を与えてくれたことにも感謝した。用無しでクビにならずに済んだ。 先輩に背中を向けて保健室の扉に向かって足を進める。 「悠介。」 「おっと…」 ガタンと後ろで音が鳴った直後、腰に手が回り凄まじい吸引力でうなじあたりの匂いを吸われた。 もしかして掃除機当てられてるんじゃないか。…違うらしい。 「先輩?」 「これくらい許せ。」 「…はい。」 毛がなくなりませんように。
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