唐揚げ

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ビシッとブレザーのボタンまで留めてきっちりネクタイも締めて何一つ崩れていないこの生徒は見た目にそぐわず唐揚げを指で摘んで口をもぐもぐしている。 完全に摘み食いのそれだ。 俺と目が合っても、ふいっと逸らして無言で食べ続ける。さっき俺を見て、あって声を漏らしていただろう。なんか寂しい。 随分前に土佐谷くんにこの顔は絶対覚えておくべきと写真を並べながら学園の有名な人達を見せられたが、その中にこの方がいた。 「…副会長様。」 意外だった。 見た目や噂で自分に厳しく他人にも更に厳しい、完璧主義な方だと勝手にイメージしていた。 こんな姿の副会長様を誰が想像できるか。 「貴方は確かこの前パーティー会場に居たシェフですよね。」 何を言い出すかと思ったら。 歩月双子のパーティーの時に一度ほんの少しだけ顔を合わせていたのを覚えてたのか。俺にとっての救世主だった。 「…貴方、唐揚げは好きですか。」 「はい、とても好きです。」 眼鏡をかけているから気が付かなかったが、よく見ると彼の目の下にうっすらと隈ができていた。 「ふふ…私もです。ご馳走様でした。」 それだけ言うと皿に唐揚げ5つだけ残してフラフラした足取りで食堂を去って行った。 「…え?」 どういうことだ。 今の学生さんは何を考えているか分からない人が多い。 まず山盛りになっていた唐揚げをどうやって短時間で胃袋に収めたのかが知りたい。 食べ始めるところから終わるところまでじっくり見たかった。 「…相当疲れていたんだな。」 副会長様がどうでも良さそうな話で笑っていた。
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