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「…すみません、もう少しこのままで…」
ふわりと微かに香る柔軟剤の匂い。俺の耳元でドクドクと振動する心臓。
俺は今、真っ暗な空き教室で扉を塞ぐようにしゃがんで彼と密着している。
しかも背後から頭ごと抱き込まれ、口を手で塞がれるオプションつきだ。
久々に危険な状況である。
自分も色々な意味でドキドキだ。
「おっかしいなー…どこ行ったんだ?」
廊下ではパタパタと足音が聞こえる。
出会ってしまったら強制参加の鬼ごっこみたい。
「……。」
しばらく待機していると、足音も遠ざかってただただ無音のシンと静かな空間が生まれ始めた。
「…あの、そろそろ離してもらっても?」
「っうわ!す、すみません!」
頭上で大きな声が聞こえ案外簡単に拘束が解かれた。
ンバッ!くらいの勢いで離れてくれたな。
振り向いて顔を覗くと彼はわたわたと両腕を左右させ顔を伏せた。
「ほ、ほんとにすみませ…!」
「いや、そんなに謝らなくても大丈夫で……って、あれ?」
彼の肩を叩き声をかけると、僅かながらも顔を上げてくれた。
髪型も違うし眼鏡もないけれど、
「東条くん…?」
彼は購買のお兄さんだ。
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