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断りを入れてお手洗いに席を立った。
全然意識あるしまっすぐ歩けてる。吐き気もない。
とても気持ちいい酔い方をしてる。気がする。
トイレまでは少し遠くて、着く間は店内の賑やかな雰囲気を楽しめた。ガヤガヤワイワイ。居酒屋ってこういうのがいいんだよな。
済ませてからスマホで時間を確認すると店に入ってからもう2時間は経っていた。
あっという間だと思いつつ、不在着信の文字を眺める。
「…珍しいな。」
久しぶりに見たアイツの名前。
ホームシックになってまたしょうもない電話をしてきたんだろう。
…後でいいか。
今は栄さんの方が大事。
スマホをポケットに突っ込み足早に戻った。
ちょうど店員さんとすれ違いで個室に入ると新しいグラスが2つテーブルの端に置いてあった。
「お冷頼んでおきました。」
「わ、ありがとうございます。」
私もお手洗いに行ってきます、と栄さんが個室を出た。
グラスの形は違ったが同じくらいの大きさで透明の水が入っていたから、手前のグラスを手に取ってぐいっと飲み干す。
栄さんが焦ったようにバタバタと戻ってきた。随分早い帰りだった。
「っすみません、お冷ともう一つは私が飲む焼酎のロック…」
「え?」
「…です。」
気づいた時には既に遅く。
喉がカッと熱くなって力が抜けた。
俺の記憶はここで止まっていた。
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