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髪が撫でられる感覚がする。
どこか雑でぎこちなくて、時折くしゃりと指に力が入る。
誰だろう、なんて思って瞼を上げた。
「…きどさき、先輩…」
「ん。」
大きな手は先輩のだった。昔から先輩の手はなぜか心地よくて安心できる。
どんなハンドパワーを使っているのか。
「いつの間にベッドに…」
「俺が運んだ。感謝しろよ。」
俺はベッドの上で布団までかけられていた。上体を起こすと毛布がはらりと落ちた。
先輩の寝息を聞いていたら自分も眠くなって寝てしまったようだ。
先輩とそんなに身長も変わらないはず。寝ている男一人を苦労して運んでくれたんだなって思うと口は悪いけどやっぱり優しい人だ。
お礼を言うとまた頭を撫でられた。
「今、何時ですか。」
「夕方の4時すぎ。」
…2時間近く寝てたのか。土日の食堂は閉まってるから俺らも基本的に休みだ。
暇な時はたまに料理を教えることもあるが、今日は誰もいなかったはず。
腕を天井に上げて背筋を伸ばして手から腰まで伸びをする。頭も冴えてきて、ここでハッととあることを思い出した。
「1時間後に起こせなくてすみませんでした。」
ベッドに腰掛けていた先輩にぺこりと頭を下げると、煙草を咥える一連の動きが途中で止まって何かを考える素振りをしてから、あぁ…と小さく頷いた。
「いいよ、用事ねぇし。つーか悠介、」
「はい。」
「…なんもねーよバカ。腹減ったからなんか作れ。」
久々に先輩の大好物の肉じゃがを作ったらおかわりしてくれた。
食事中あまり喋らないかわりに綺麗に全部食べてくれる。そして先輩は箸の持ち方が綺麗だ。
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