きらめく並木の下で

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きらめく並木の下で

 国分町通りをしばらく北に歩くとそこにあるのは定禅寺通りだ。市や県の主要機関が入ったビルやホテル、飲食店などが立ち並ぶ文字通り仙台のメインストリートなのだが、杜の都と言うだけあって歩道には並木が連なっている。今は仙台市名物の光のページェントの時期。所狭しと歩道に並ぶ木々の1本1本にはきらびやかな電飾が施され、その下をお揃いのマフラーをつけた若いカップルがまるでこの世の春を謳歌するかのように仲睦まじく歩いている。長沢が辺りを見渡すと、いたるところで手を繋いだり、腕を組んだりしているカップルの姿が見受けられる。中には人目も憚らず並木の下で口づけを交わしている者たちも見受けられるくらいだ。長沢が思わず下を向いたとき、 「よーし!皆集まれ!」  と、牧場の声が響いた。長沢が顔を上げると、牧場の上には木々の光が降り注いでいた。 「今から皆で記念撮影をするで!」  牧場はそう告げると、きょとんとしている長沢達を有無を言わさぬかのように木々の下へと誘導する。 「ワレが真ん中に座れ。この写真ではな、一番暗そうな顔をしてる奴がセンターに似合うんじゃ」  牧場は長沢の耳元でそうつぶやくと、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。浪人生御一行様がぞろぞろと並木の下へと並び終えると、牧場はインスタントカメラをかばんから取り出した。 「いいか?笑えよ?しんどかったら作り笑いでも全然構わん。今できるベストの笑顔を作るんじゃ!」  牧場はインスタントカメラを構えながらそう叫ぶ。そして長沢がやっとこさ笑顔を作ったところで、シャッターが押された。撮影が終わり、皆が隊列を崩したところで、牧場は口を開いた。 「いいか?よく聞け。お前らの中には、頑張っとるのに結果が出んかったり、不安に潰されそうやったり、苦しくて、どうしようもない者もおるかも知れん。しかし考えてもみぃ。このクリスマスだって、電車を走らせる人、遊園地でアトラクションを動かす人、めし屋でフグ鍋の仕込みをしてくれる人、いろんな人の汗水の上で成り立っとる。さらに視野を広げたら、病気で仕事にすらつけへん人もおるし、劣悪な環境で育ってプレゼントすら貰えへん子どもだっておる。中には従業員の生活を守るために金策に走ってる零細企業の社長だっておるかも知れん」  牧場はそう言いながら、その場にいる1人1人順番に人差し指をさしていく。 「ここにいるお前らは、東大や京大、阪大、一橋、東北大なんかを目指せるステージには少なくとも立っとる。ということはお前ら1人1人が、将来の地元、ひいては将来の日本を背負っていくっちゅうことじゃ。この1年の間に挫折、破綻、苦境を味わい、自分の限界と闘ってもがき苦しんだからこそできることが必ずある。だからこの1年浪人したことに誇りを持て!そして残りの2ヶ月間死ぬ気で勉強して絶対に合格を掴み取って来い!」  牧場がそう告げたとき、長沢は目を少しだけ潤ませながら深く頷いた。依然としてパラパラと粉雪が舞い降りる中、近くのバーからジングルベルの音が聞こえてきた。
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