175人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「あぁ。 ただし条件がある。」
「・・・条件?」
「ゲームに勝ったらの話だ。」
・・・え?ゲーム?
「今からゲームをして、もしお前がそれに勝ったら・・・」
先輩が耳元で呟く。
「俺のこと くすぐっていいぞ」
そう あの時自分が頼んだこと
それは
『先輩のこと・・・くすぐらせて下さい・・・!!』
だった。
当時は一瞬戸惑っていた先輩だったが、笑って即OKが出たのだ。
「にしても、なんであの時、俺のことをくすぐるなんて言ったんだ?」
「それは・・・」
言えない。
『自分と同じ感覚を味わってもらって、自分が傷ついていないことを分かってもらいたいから』だなんて・・・
『俺・・・ひどいことしていないか?』
いつも笑っている先輩があの時見せた切なげな顔。
ひどいことだなんて・・・
そんな顔見たら、こっちまで胸が締め付けられる気がする・・・
「受け手の感覚を、より理解していただくためです。」
「受け手?」
「くすぐられる側のことです。小説を書く際、攻め手の気持ちと共に、受け手の気持ちも頭に入れながら書いていると思います。樹の色気ある描写や台詞と、裕翔のなんとも言えない感覚やつぶやきが合わさることで、あの小説はより光ると思うんです!その感覚を、この機会に味わってほしいのです!」
それっぽいことを口走り、先輩の納得を得ようとする。
ただ・・・作者である先輩に「うっとおしい」と思われたらどうしようという不安はあった。
「お前ってやっぱりこのことになると熱心になるな。」
「すみません・・・」
「いや何で謝るのよ(笑)」
「僕なんかがこんな偉そうなこと言って・・・」
「和人っ。」
ずいっと先輩が顔を寄せてくる。
名前で呼ばれることにまだ慣れないから、驚いたのももちろんだし、先輩の顔が急にドアップになったことも、ドキッとした。
先輩の目線が貫いてくる。
「自分を悪く言い過ぎるの禁止っ!」
「は、はいっ。」
・・・そういう先輩だって、自分自身のこと悪く言い過ぎる時あるじゃん・・・。
「それに」
先輩は返事を聞いて離れる。
「・・・俺、あんまくすぐられたことねーから・・・ちょっと気になるかも・・・」
その頬は、少し赤らんでいる。
笑ったり 落ち込んだり 恥ずかしがったり・・・
本当にいろいろな表情をする先輩。
どれが一番だなんて順位をつけられないぐらい・・・
・・・って、何考えてるんだ!!自分は!
最初のコメントを投稿しよう!