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放課後グラフィティ
美咲と伊織は放課後、窓側の席に腰掛け、グラウンドの活気を眺める。部活中の生徒たちが発する熱のこもった声は、校舎の4階まで響いてくる。秋の終わりと冬の訪れを同時に感じさせる風が、二人の髪を優しく揺らした。
「もうすぐ卒業って、ヤバくない?」
ヨレた靴下を伸ばしながら、美咲は言った。
「時間が経つのって超はやいよね」
「いろいろあったけど、充実した高校生活だったかな」
美咲は再びグラウンドを見下ろし、脳内に思い浮かんだいくつかの思い出を懐かしんだ。
「大学は別々──寂しくなるね」
伊織の声のトーンが変わったことに気づき、美咲は視線を移す。
二人は幼稚園からの幼馴染み。泣き虫だった美咲はいつも伊織に助けられてきた。気づけばいつも伊織がそばにいてくれた。何も自分で決められない美咲は、伊織の選択に身を委ねることが多かった。でも、大学は違った。伊織から自立することが彼女を喜ばせることだと信じていた。だから、親友の口からこぼれたその言葉は意外だった。
「別々っていっても、別に友だち関係が終わっちゃうわけじゃないし。伊織はいつだって私の中で大切な人だよ」
小さく頷く伊織。そんな二人の感傷的な時間を打ち破るように、教室のドアが音を立てた。そこには教平の姿。
「何やってんだよ、お前ら」
バスケ部のユニフォーム姿で現れた教平は、窓辺で向き合って座る二人を見て呆れ顔。
「教平こそ何やってんのよ? もう部活は引退したでしょ!?」美咲が叫ぶ。
「女子のリコーダーでも舐めてやろうって、放課後の教室に忍び込んだのに」
「はぁ? リコーダーなんか誰も持ってないし」
「冗談だよ。どうせ帰っても暇だから。顧問の目を盗んで、後輩にバスケ教えてんの」
「アンタってほんとバカだよね。いい加減、オトナになりなさい」
「美咲に言われたくねぇよ」
教平は爽やかな笑顔を見せると、机にかけてあったカバンを手に取り、教室を後にした。
「あいつってほんとアホじゃない?」
両手を広げ呆れた仕草をしながら伊織を見ると、なぜかその目は潤んでいた。
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