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両親が純粋に息子と信じて接するごとに、兄は申し訳なさそうな顔をした。
誕生日などは特に辛そうにする。両親に祝われて心底嬉しそうはにかむのに、子どもらしく喜ぶのに、不意に表情を曇らせる。
そしてたびたび、自分が人ではないことを俺に語った。本当のことを両親に明かせない代わりの懺悔のようなものだったのかもしれない。
――見ていたのならわかるだろう? 僕の本質はあの虫のようなもので、人間じゃないんだ。
――知ってるよ。
正体を知りながらも、俺の中で兄が兄であることは依然として動かしようの無い事実として存在していた。
出会いのあの日から何年も経ち成長してからも、兄は幼い子に言い聞かせるように説く。そのたびに俺の方も頷いて、確かに見たから分かっているよ、理解しているよと答える。
「だけど兄貴は兄貴だろう」
未だ自宅での療養生活の続く兄と違い、中学に入ってからめきめきと体力と筋肉を付けていく俺に、兄は呆れてため息を吐く。
「……僕はいずれ変容するよ。生き物の器を仮の住まいとしていつか遠くに旅立つ。それでも僕は兄だろうか?」
不安げに問われ、俺はそれでも兄だろうなと言った。
「こうして俺の方が身長が高くなっても弟であるのとおんなじことだ」
腕の太さも俺の方が勝っている、と自慢すると不機嫌な顔をする。
「……まったく。頑固で可愛くない弟だ」
今さらあの虫の姿になったところで俺はたぶん、驚くことはない。もしもどこか遠くに離れたところで、何年も一緒に育ってきたのだから家族であることにも変わりはない。
そう言うと、兄はそうか――とどこか複雑な表情を見せた。
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