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高校生となったある日、両親が車で出かけた先で交通事故に遭った。父も母も、兄が本当の子供であると信じたまま逝った。
「……なにも出来なくてすまない」
悄然と項垂れて、兄は俺に侘びた。弱い体を抱えたまま、葬式の采配も親戚への挨拶もまともにこなせなかったと嘆く。
「悲しかったからだろ」
感情の波に揺さぶられ、平静でいられなかったのは俺も同じだ。
「……あれほど良くしてもらったのに。――人があんなにも優しいものだとは知らなかった。知っていれば仮の宿になどしなかった。たまたま選んだだけの体なのに、親からあんなに愛情を注がれるとは思わなかった。……本物を返せもしないのに」
騙し続けたままで逝かせてしまったことを悔やむ。兄はどこまでも真面目で馬鹿だ。本当の感情で全力で悲しんでいる自分に気付きもしない。
「悲しいのは、兄貴が父さんと母さんの子どもだった証だ。兄貴が二人の子供じゃなかった瞬間なんて一度もなかった」
――言ってはいけないよ、と言われ続けた虫の姿。驚かせたくなかったのだろう、落胆させたくなかったのだろう。それは父と母を思いやっていたからだ。ただの二人の子供でありたかったからだ。
「……君は相変わらず、優しいばかだなぁ」
呆れたように言って泣く。
「生まれてくる感情がどんなものであろうと、虫を家族だなんて、普通はきっと思えないよ」
そうだろうかと俺は言う。兄が虫でないことが逆にぴんとこないと返すと、今度は本当に「君はただの馬鹿なんだ」と言われてしまった。
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