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シヲリによる説明の都度つど、疑問に思った部分で質問をしていく形式になったが、大体の流れは普通のウェイトレス業務と変わらないようだった。
ただ一つ、違いがあるとすれば――。
「――そのお客さんとお喋りする時間って、呼ばれたら行けばいいのよね? お話ってどんなお話をするんでもいいの?」
「うん。楽しく会話するもよし、一方的に喋り倒すもよし、聞き専に徹するのもよし。基本的にはお客さんのタイプに合わせて臨機応変にやっていく感じかな」
「そうなのね。私、そういうの得意じゃないから、上手くできるか心配だわ」
“春宵の黒猫亭”の昼間の営業には、オプションとして女性従業員とのトークタイムを儲けていた。さすがは夜間に娼館として機能している店である。
女性従業員の人気によって、オプション金額はまちまち。新人及び一日体験入店の従業員のオプション価格は一律で10分大銅貨三枚――三〇〇円相当額だと推測する――だそうだ。
そして、このトークタイムの稼ぎ八割が給金に別途あてられるとのこと。なかなか美味しいシステムではあるが、お喋りが苦手と謙遜するビアンカは憂慮を顕わにしている。
「ビアンカさんの場合、にこにこ笑って聞いていれば大丈夫そうな気がしますね」
「だね。高齢女性のお客さんも多いっていうし、孫とお話する感覚の人にはウケそうかも」
「そ、そうかしら……。昶さんはどんなお喋りも上手にこなしそうだし、亜耶さんも卒なくこなしそうだし。寧ろ二人に全部お願いしちゃいたいくらいよ……」
「あはは、始める前から心配しすぎだってば。習うより慣れろってことで、やってみなくっちゃね。――そうしたら、更衣室に昼間用の仕事着があるから好きなのを選んで着替えてもらって、その後にホールに出て接客の流れを説明するね」
こうして昶と亜耶、ビアンカで昼間は飲食店・夜は娼館という異質な店の手伝いをすることになるのだが――。
上手くいくのかいかないのか。そこは神のみぞ知るという現状なのであった。
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