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素行の悪い海賊衆は、大半を叩きのめした。中央広場で昏倒している面々は、後々に勝手に目を覚まして去っていくか、警吏団に見つかって留置場に放り込まれるだろう。
騒ぎの最中で逃げ出した海賊もいたが、それは追わずに捨て置いている。
ヒロ自身が何か手を下す気は更々無く、向かってくる輩が居なくなったことで、カトラスとソードブレイカーは刃毀れの有無を確認した後に鞘に納めた。
そして、ビアンカが確保した花冠の少女の元へ、ヒロは足を運ぶのだった。
「君とビアンカ――、本当にそっくりだね。髪の色調も同じだし。そうやって並ぶと、背の高さも殆ど同じとか……、あと声も……」
花冠の少女に感謝を述べられ、紺碧の瞳を瞬かせて出た第一声。
そこからヒロの瞳は、頭の天辺から爪先までを流し見る。
花冠の少女と隣に並ぶビアンカは、靴底で若干の差違があれども背の高さは同じ。予想であって定かでは無いが、身体の細さも似たようなものだろう。
亜麻色の髪も、偏に『亜麻色』と言っても色合いに個人差が出る。しかしながら、ふたりの長く伸びた髪は色調も完全に同じだ。
あまつさえ、聞き慣れたビアンカの声と、花冠の少女の声も耳に入れると同様のもの。目隠しをされてどちらの声かと問われると、答えあぐねるはず。
顔立ちだけは、頭上に戴く燐たる花冠が目元を覆い隠し、ビアンカと同じと言えない。だけれど、頬から顎の線にかけては似通っている。
「ビアンカってさ。姉妹っていなかったんだよね?」
不意と問い掛ければ、ビアンカはハッと反応を示した。――どうやら花冠の少女の姿を改めて見やり、自身に似ていることで愕然としていたようだ。
「え、ええ。一人っ子のはず、なんだけど。私が知らなかっただけで、実は養子に出た血の繋がったお姉様だったり……、とか、しないわよねえ……?」
ビアンカは東の大陸出身で、元貴族の令嬢という高貴な出生だ。家族制度を採用し、相続者を得るための養子縁組が風習として根付いている地域だったので、もしかしたらやんごとなき理由があって養子に出された兄弟がいたのかも――、などと頭を過ったようだ。
「そうねえ。『生き別れの妹とかだったりせん?!?!』とか言って、迫ってみてもいいんだけれど――。私とあなたは姉妹ではないのよね」
なにやら何処かで聞いた台詞と言い訛りで、ヒロとビアンカの脳裡に勝気で賑やかな赤毛の女性の存在が掠めていく。
ヒロとビアンカが首を傾ぐ傍らで、花冠の少女が「姉妹どころか、もっと近いのよねえ」と小声で呟いたのは、誰の耳にも入らなかった。
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