<刃の鋭い光、飛翔>

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 花冠の少女が辺りを見回すように窺う。そして、何か思うところがあったのだろう。緩やかに移ろっていた視線が再びヒロとビアンカを映し、小首が傾いだ。 「ところで、(あきら)さんと亜耶(あや)さんはどうしたの?」  昶と亜耶が騒ぎに参加すれば目立つだろうに、何故だか姿が見えなかった。どこか離れた場所で喧噪の制圧をして、これから合流するのかとも思ったが――。そうした気配もない。  それを花冠の少女が指摘すると、ヒロは「うっ」と頬を引き攣らせ、ビアンカも何処か気まずげだ。  ヒロが体裁悪げに頬を掻き――、僅かな時間を沈黙が覆う。と思えば、意を決したのか口を開いた。 「あ、あー……、っと、その。道中で、はぐれちゃたんだよねえ。急いで駆け付けたから……、気付かない内に振り切っちゃった、みたいで……」 「中央広場(ここ)に到着した時に、初めて後ろにいないことに気が付いて。――でも、あなたの保護が最優先だろうってなってね」  なるほど、事情は察した――と、花冠の少女は頷いた。  ヒロとビアンカは中央広場に辿り着いてから、昶と亜耶が付いて来ていないことに気付いた。  だが、中央広場では既に花冠の少女が素行不良な海賊衆に追い詰められていたため、ヒロの判断で助太刀が優先されたのだ。  しかしながら、土地勘無く追うことになった昶と亜耶にも気を遣わず、この場に駆け付けたのは少しばかり無責任ではなかろうか。  さような思いも相まって、花冠の少女の口元が慨嘆で歪んだ。花々に隠れている目端も、きっと吊り上がっていることだろう。 「呆れた。あなたの女の子が絡んだ時の猪突猛進っぷり、ほどほどにしないと後で苦労するわよ。信念は立派だと思うけれど、女の子の心配をするあまりに、他の女の子をほったらかしにしちゃって。そういうの、良くないと思うわ。――そもそも、あなたは心に決めた相手がいるくせに、余所の女の子にまでいい顔していて。そうやって八方美人みたくして時々ヤキモキさせているんだから、優先すべきヒトのことを考えた言動を心掛けてほしいわね。はしたないって思って、(ひが)みも自制しているんだから」  堰を切ったように、早口でいて饒舌多弁に綴られる忠告(おせっきょう)。  あんぐりとして紺碧と翡翠の瞳が瞬くも――、最後の言葉の意味がヒロには解せない。 「うぇ……? (ひが)みって……。なに、それ……?」 「ん。こっちの話よ。詳しいことは“乙女の秘密”だもの」  言いながら、花冠の少女の隠れた瞳がビアンカを映す。そうして、「ね。そうよね?」と同意を求めるものだから、ビアンカは困惑を表情に帯びるのだった。
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