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「ね、ねえ。それより、あなたとヒロって、もしかして知り合いだったの?」
ヒロに対し、あまりにも慣れ慣れしい花冠の少女の言動。かつ、花冠の少女はヒロの性格を把握しているようだ。
そこに引っ掛かりを覚えたビアンカが問えば、ヒロは然りに頷いた。
「うん。昨日、話をしたでしょ。助けたお礼に懐中時計をくれた人がいるって。それが、花冠の女の子なんだよ。――どういうワケか、記憶からスッカリ抜け落ちていたんだけど……」
「ええっ?! そ、そうなの……?」
慮外なヒロの返弁を受けて翡翠の瞳が花冠の少女を映すと、鈴を転がすようにコロコロと喉を鳴らして笑う姿が映る。
「ふふ。わざわざ過去に赴いて、今回の物語の土台を作った感じなんだけれど。……あの懐中時計は、まだ持っているかしら?」
「持ってはいるんだけれど……」
またも理解の追いつかないことを言され、戸惑いながらも答える。しかし、ヒロの応じは随分と歯切れが悪いものだった。だけれど、さようなヒロの受け答えも無理はない――。
「“群島諸国大戦”の終結時。そのイザコザで、あの懐中時計は時を刻むのを止めてしまったのよね。そして、永らく止まっていたことで、中の機械は狂ってしまうでしょう。それでも、あなたは大切にしていてくれのだし、気に病まなくても大丈夫よ。――持っているのなら、貸してもらってもいいかしら?」
「え。あ、うん。今はビアンカに預けてあるんだ」
何故、そこまでお見通しなのだ、と思うところはあった。
だが、花冠の少女の要求に応え、紺碧の瞳はビアンカを見やる。ヒロの持っていた懐中時計は、今はビアンカが預かり持っているのだ。
「これ、なんだけれど……」
ビアンカは、小ぶりな肩掛け鞄から取り出した懐中時計を両手に乗せ、花冠の少女へ差し出す。
真鍮独特な色を放つ懐中時計。上蓋の付いたハンターケース型と呼称される形状のそれは、男物の重厚感と大きさを有し、蓋の彫り物は華やかで女性的な印象を抱かせる。
彫られた模様は、スイセンに似た葉とスズランのような鐘形の花を下向きに咲かせる――、ビアンカ曰く、スノーフレークと呼ばれる種類の花だ。
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