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「君さあ、なんてことしているの? どういうつもり?!」
「昶さんと亜耶さんに会って、迎えの予定を決めるわ。また一悶着起こしちゃうけど――、悪く思わないでね」
「は?! 一悶着って――」
語気荒く言葉を紡ごうとすると――次の瞬間、ヒロは突如として膝を折り、石畳に腰を落としていた。
「なっ――?!」
何事かと視線を移せば、自身の下肢と腰に、石畳から湧きだした黒い手の群れが絡みついている。それらに強引に引き倒されたのだ。
驚愕に目を丸くして花冠の少女を見やれば、左手を口元に添えてくすくすと笑っている。
花冠の少女の左手からは黒を帯びる燐光が散り、フリルやレースで飾られた袖口から垣間見える手の甲には、火傷の痕のような赤黒い痣が窺えた。それを認めた瞬間、ヒロは言葉を失った。
「ごめんなさい。――それ。私じゃないと解けないから、私に解いてもらってね」
「えええっ?! ちょ……っ、待って……っ!! 君の左手のそれって――っ!!」
――どう見ても“喰神の烙印”じゃないか。そう叫びそうになるが、ヒロはぐっと堪えた。公衆の場で“呪いの烙印”のことを口出すのが憚られたからだ。
ヒロが口ごもっている間に、花冠の少女はくすっと一笑を洩らし、踵を返す。と思えば、すぐに埠頭方面へ向かって走り出してしまう。
ヒロは止める言葉を出せぬまま、花冠の少女の背を見送る羽目になってしまった。
「ええ……? “呪い持ち”だと思ったら……、あの子ってば、もしかして本当に……? で、でも、どういうことなの……?」
小さくなっていく背を見ながら、唖然とした面持ちで漸くといった様子で声を出す。
疑惑に自問自答をしながら、ゆるりと視線を自身の胸元へ落とせば、未だに目を回しているビアンカの姿。
その視線の片端には、まるで立ち上がるなというように絡みついてくる黒い手の束。
「もう。鬱陶しいなあっ!!」
腕で払おうにも、黒い手はぞんざいな扱いをしてくるヒロの腕を掴み――、つい「気色悪っ!」と罵って振り払う。
肌が粟立ち身震いしていると、突として甲高い音が耳についた。それは、爆発音に近くて違う、尾を引く騒音じみた音。
つい先日まで聴いたこともなかった、だけれど今は聴き覚えのある音だった。
騒がしくなった中央広場の衆目の視線を追って、首都ユズリハの城方面――。その上空へ紺碧の瞳が向く。
「え。あれって“紫電”じゃん! 昶と亜耶、だよねっ?!」
困惑と焦りをヒロに与えたことなど露知らず。城の上空から海原へ向かって灰色の偶像――、魔導機兵“紫電”が飛翔していくのであった。
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