<刃の鋭い光、飛翔>

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「おふたりが花冠の少女と接触したのは、間違え無さそうですね」  ヒロのハンドサインが表した『異常あり』は現状を示しているのだろう。近場に花冠の少女を見受けられないことから、逃げられるか何かして『急げ』を示すのも理解できた。 ――ならば、『敵』と示されるものは何だろうか。  そんなことを考えながら展開されるモニターの、ヒロが腕で差した埠頭方面への道を中心に確認していくと――。  噴水のある広場から埠頭へ向かう道すがら、往来の人々が避けていく光景が目についた。モーセの海割りよろしく民衆を左右に除けさせ、大路(おおじ)の中心を駆け抜ける人物がいる。 「見つけたっ! 花冠の女の子っ!!」  埠頭から城へ向かう主要の大通りだろう太い道。――城へ向かって一直線に伸びず、山の傾斜を少しでも緩やかに登るためにか、山系に沿って左右に蛇行を繰り返す広い道の途中に、長い亜麻色の髪と白いワンピースをなびいて走る花冠の少女の姿があった。  だけれども、様子がおかしい。花冠の少女は妙に後ろを気にして走っている様子なのだ。  後ろに何があるのだろうか。そんな疑問を感じて亜耶は近距離拡大カメラが映し出す角度の調整をし――、途端に険しい顔付きを浮かした。 「どうやら追われているようですね。海賊風の格好をした男が……、三人です」 「あー……、ヒロ君のハンドサインの『敵』って、海賊(それ)のことかな」 「ヒロさんのいる噴水公園にも、海賊らしい連中が転がっていますから。そうかもしれないし、違うかもしれないといったところですね」  なんとも歯切れの悪い亜耶の返事だった。それに「どういうこと?」と昶が問えば、亜耶は自らの考えを綴り出す。 「ヒロさんとビアンカさんが、噴水公園で花冠の少女を救ったのは間違いなさそうですが――。それならば何故、花冠の少女はまた海賊に追われているのでしょうか。それに、おふたりが花冠の少女が扱う黒い手に拘束されているのが()せません」  花冠の少女がヒロとビアンカに一度確保されたのは、中央広場に海賊衆が倒れているので明確とも言えた。ならば何故、花冠の少女はヒロとビアンカの動きを制し、再び海賊たちに追われているのだろうか。  何かしらの理由があるのかも知れないが――、昶と亜耶には一切解せない。 「――ヒロ君とビアンカちゃんの方は、放っておいて大丈夫かな?」 「問題無いと思います。……左上モニターでリュウセイさんたちが向かっているのを確認しました」 「オーケー。そうしたら、花冠の女の子(あの子)が何を考えているのか、直接問い詰めるとしましょうか。――道のど真ん中に“紫電”を降ろすのは厳しそうだから、埠頭で割って入るわよ」 「了解。いつでも着陸できるようにしておきます」  何を考えているのか分からないのなら、直に詰問すればいい。遅疑逡巡と疑念を論争している暇はないのだ――。  漸く発見した花冠の少女を近距離拡大カメラで捉え、“紫電”は徐々に高度を落としていくのだった。
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