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花冠の花々の合間から後方をちらりと窺えば、物凄い形相で追ってくる海賊たち。
「予想はしていたけど、ほんと執念深いわねえ」
辟易と溢して再び進行方向へ目を向け、駆け足は止めない。あと僅かで広い場所――、多くの船が停泊する埠頭へ辿り着く。
中央広場でヒロとビアンカに保護された後に、必要以上に二人に関わるのは良くないと思った。なにせ自分は、今この時代にいて良い存在でないのだから。
――まあ。実際のところ、それは方便である。根掘り葉掘りと聞かれても、事情が事情で答えるのが面倒臭いと思ったのが正直なところ。
だので、ヒロとビアンカを撒いて、昶と亜耶だけに会って迎の諸々を伝えるつもりだった。
別行動となった昶と亜耶に合流しよう。あの二人は聡いので、きっと空からなら発見が容易いと気付くはず。だから降り立ちやすい、広い場所が確保できる埠頭へ足を向けた。
そう思案して駆け出した中で、中央広場に行き着くまでに振り切った海賊面々に出くわす可能性も考えていたら――。案の定というように出くわし、追われる事態に陥ってしまったのだ。
「――来たわね」
ふと聴こえてきたのは、いつまでも尾を引く大きな音。大路を行き交う民衆が騒めいて上空を見やる様から、見越した通りに昶と亜耶の乗った“紫電”が飛来したのを確信する。
“紫電”の飛行音は花冠の少女が埠頭区画へ足を踏み入れ、尚も駆け走るのを後続して徐々に音を大きくしていく。その最中で追蹤してくる海賊たちが吃驚の声を上げたが、どうやら追う足は止めないらしい。
それを「懲りないなあ」と嘆息しつつ、走っていれば――。
「<着地を制する者が正義を制ええぇぇすっ!!!!>」
昶の声が幾重にも響いて飛行音が一際大きくなったと思うと、次には花冠の少女も海賊衆も、埠頭に居合わせた人々共に強い突風に見舞われた。それと同時に足元から身体の奥に響く、地面が揺れる振動。
辺りには風に煽られた船が軋む音と海が波立つ音が鳴り、焦燥を露わにする男たちの声と女の悲鳴が上がっている。
誰もが身を煽るほどの強風に吹き飛ばされぬよう、足を踏み締めていた。頭を庇っていた手を下ろし、強く瞑っていた瞼が恐る恐ると上がる。
花冠の少女も足を止め、身を低くして風に耐えていたが、漸くといった態で瞳を開けた。
砂埃が巻き上がり、様々な布地や紙切れが舞い上がる中――。
視線の先には、灰色の偶像――。グレーのロービジ塗装を太陽に照らす“紫電”が、花冠の少女と海賊を別つように佇んでいた。
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