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「え……。なんだ、これ……?」
紺碧の瞳が映したものが謎過ぎて解せなさ過ぎて、ヒロは唖然と目をまじろいだ。
細身な一本マストを有する小型帆船で沖合近くに出た。そして、眼界に現れたのは――、これは鉄の塊だろうか。このように大きな鉄製のものは生まれてこの方、見たことが無い。
周辺の海域は遠浅なため、水深はそれほど無い。鉄の塊に見えるそれは、ヒトが尻もちをついて座り込むような形で鎮座し、腰なのだと思う部位辺りまで海水に浸かった状態だ。
今は座っているらしい形状だが立ち上がれば――、いや、これが物的に立つのかは分からないが、全長はおおよそ十八メートル。二本マストの小型帆船であるケッチ船ほどの大きさか。
ヒロは船首に立って手にした櫂で海面を掻き、船を謎の物体に接舷させる。呆気に取られて半開きになっていた口元を引き締め、気を改めて紺碧の瞳で上から下まで流し見るも、やはり何なのかさえ想像が及ばない。
「なんていうか、偶像みたいじゃない? ヒトっぽい形をしているわよね?」
「うん、そんな感じがする。――あと、さっき感じた不穏な魔力を表面に帯びているね」
翡翠の瞳が映すものを解せずにビアンカも首を捻っていたが、見たまま受けた印象を口に出す。
ビアンカは持ち前の好奇心から、少しでも近くで見ようとしているのだろう。不思議そうに瞳を輝かせ、船の縁に手を付いて中腰で身を乗り出している。そのせいで船の重心が偏り僅かに傾いだため、ヒロはビアンカを手で制して「落っこちるから」と軽く諫めた。
窘めに従ってビアンカが腰を下ろしたのを認めると、ヒロは再び正体の分からぬ物体に怪訝さを帯びた紺碧の瞳を差し立てる。
「空から落ちてきたのは、こいつで間違え無さそうだけど。――中の方に感じる魔力の波長って。なんか、覚えがあるというか……」
この正体不明な物体が表面に帯びている魔力は、暗然たる様相を感知させた。まるで“呪いの烙印”を行使したかのような暗く重く濃い――。しかし、相反する慈しみを抱懐しているようにも感じる。
遥か上空から海へ落ちてきたにしては、壊れた様子も無い。もしかすると、この包み込むように表面を覆う魔力が原因かと推察していく。
そして、更に内側に感じるのは、身に覚えのある魔力の波長だった。どこで感じた魔力だったかヒロが首を傾げていると、不意に腰に巻き付けた帯布を引かれた。
はたと思想を中断して帯布を引く主を見やれば、座り込んだままのビアンカが怪訝そうに何かを指差し示している。
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