<刃の鋭い光、飛翔>

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「<そこの海賊!! 一方的に追い回される怖さを教えてやろうか!>」  外部スピーカー越しに、昶の声が辺りへ響き渡った。  よもや鉄の塊じみた謎の偶像から、人の声――しかも少女の声――がすると思っていなかったのだろう。途端に人々の騒めきが大きくなり、怯んでいた海賊たちは呆気に取られた面持ちを浮かす。 「なんだぁ?! 乗り物なのか、これっ!?」 「しかも乗っているのは女な上に、小娘の声じゃねえか」 「女の分際で海の男に大口叩いてるんじゃねえぞ!」  そうだそうだ、と強気な野次が上がる。搭乗者が少女だと分かるや否や、完全に舐めた態度を示していた。 「そもそも、『怖さを教えてやる』って何をするってんだっ! やれるもんならやってみやがれっ!!」  海賊の一人が恐れ知らずな啖呵を切ると――、昶はにやりと唇に弧を描く。  昶は悪い顔(いい笑顔)で黙したまま、“紫電”の操作パネルを指先で叩く。すると、“紫電”の頭部が微かに下方へ傾き――、頭部機関砲(60ミリバルカン)が火を噴いた。  間髪入れず、石畳に弾が跳ねる音が鳴り、抉られた石が散って砂埃が舞い上がる。着弾したと同時に、海賊たちの情けない悲鳴も聞こえた。 「<どう? やってみろってリクエストされたけど、アンコールにも応じるわよ?>」  もうもうとした砂煙が潮風に流されていくと、息巻いていた海賊衆がへたり込む姿が現れる。思いも掛けない足元への威嚇射撃に心が折れたのか、ぐうの音も出ない様子だ。  この流れから『ザマぁないぜ!』と大笑いするまでがワンセットなのだが、さすがにそれは人格的にアレなので控えた。ただ、追い打ちをかけるまでもない海賊衆の状態に、昶は至極満足気である。 「まあ、こんなもんね」 「まったく……、お遊びが過ぎますよ。――ところで、花冠の少女は何処へ行きましたか?」  “紫電”を着陸させた際、花冠の少女と海賊衆の間に割って入った。なので、“紫電”の背面に花冠の少女がいるはずである。  亜耶が背面へカメラを向けるために“紫電”を操作しようとすると、不意にコンコンッと機体を叩かれる音が聞こえた。 「ここにいるわよ」  予期せぬ音と声が昶と亜耶を驚かせ、思わずきょろきょろと視線を移ろわす。  続いて視界に入った周囲モニターには、“紫電”の肩に腰を掛ける花冠の少女が映っていた。
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