<変態と変人は紙一重?>

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 埠頭に居合わせる衆目を気に留めず、“紫電”を片膝が地につく形で駐機させた。  民衆は“紫電”の周りをガヤガヤと賑わせているが、微妙な距離を取っている。幼気(いたいけ)な少年が目を輝かせて近づいて来るものの、すぐさま母親だと思われる女性に抱えられ連れていかれた。――自分たちにとって危険は無い認識だが、近くに寄るのは怖いという態度だ。まあ、頭部機関砲(60ミリバルカン)を撃ったのもあり、無理もない反応だった。 「――えっと。それじゃあ、ヒロ君とビアンカちゃんが追って来られないようにしたのは、ただ単に事情説明が面倒臭かったから……、なワケ?」  そんな“紫電”の――、開いた状態のメインハッチ上と、同じ高さに上げられた(てのひら)に昶と亜耶は各々に腰を掛け、上向きな視線の先に花冠の少女を映す。  話の内容を反芻(はんすう)で問われ、“紫電”の肩に座る花冠の少女は首肯(しゅこう)した。 「あなたはいったい何者なのですか?」 「最初の自己紹介の時にも言ったでしょう? 私は“世界を創り替える者”であり、“花冠の女王”や“黎明の立役者”と呼ばれている存在よ」 「……なにが目的なのでしょう?」 「昶さんと亜耶さんに、この穏やかな世界(じかん)を楽しんでもらいたいって思っただけ。ここにいる()()とは、親睦を深められたかしら? ――それ以外は内緒。質問の時間はお終いよ」  核心を尋ねれば、間髪入れない返事が来た。途端に昶も亜耶も眉を怪訝に寄せてしまう。  花冠の少女には、自らが起こした今回の事柄について、真相を語る気は毛頭ないらしい。質問をしてものらりくらりと求める主旨を(かわ)され、知りたい情報が得られないのだ。  ただ、受け答えをする声の調子から考えるに、花冠の少女が嘘や誤魔化しを口にしている様子もない。もしかすると、昶と亜耶に異世界を楽しんでもらいたいという言葉は、心の底からの本音なのではと思わせるほど。  そんなことを考えながら黒と金の二対の瞳は、「んー」と喉を鳴らし、両腕を掲げて背筋を伸ばし始めた花冠の少女を見据える。  その雰囲気は、やはり見知った少女に似ていると思う。――亜麻色の髪に翡翠の瞳をしたビアンカに、である。  花冠の少女の空間を渡る神出鬼没さから(かん)がえるに、ビアンカと花冠の少女は同一人物ではなかろうか。それも――、違う時間軸(ばしょ)に在る者同士。  いずれ訪れる未来にて、膨大で強い魔力を自在に操る術を身に着けたビアンカが、この花冠の少女なのでは。そう推測していく。  だがきっと、それを問うても花冠の少女は答えないはず。またのらりくらりと(かわ)されるのが関の山だろう。
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