<変態と変人は紙一重?>

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「これは……、無理に聞き出すのも難しそうね……」 「そうですね。捉えどころが無い上に、強引に聞こうとしても恐らく逃げられます」  昶と亜耶はぼそぼそと小声で話し合う。  実力行使という言葉も、一瞬だけ頭を過った。しかし、それで花冠の少女の機嫌を損ねてしまうと、下手をしたら異世界から元の世界へ戻る手段を失いかねない。それに、大人しく捕まってくれるとも思えなかった。  花冠の少女の(たわむ)れに付き合う――。昶と亜耶には、その選択肢を選ぶしかなかった。 「……“十三周目の12時”というのは、単純に言えば六日と半日。それにプラスして5時間半――。これは現状で時計が6時半を示しているから、針が12時を指すまでの残り分ですね」 「えーっと。ということは、六日目の午後5時半頃……、になるのかな? 実際の時間だと、お昼過ぎくらい? ……ややこしいわね」  パチンッと音を立てて懐中時計の上蓋を閉じ、亜耶は黙したまま上着のポケットに仕舞い込む。そして、金の瞳が再び花冠の少女を見上げれば、口角が悦を彩る笑みが映った。――どうやら亜耶の考え方で正解だったようだ。 「あくまでも目安にしてくれればいいわ。急ぎ過ぎて何かあっても困っちゃうし。ゆっくりお昼ご飯を食べて食休みをして、それじゃあ行こうかって感じで構わないから」 「そ、そんな緩い感じで、いいの?」 「私は()()()()に慣れているし、私には時間の流れは有って無いようなものだから。――できれば、昶さんと亜耶さんにはギリギリまで、この世界を満喫してもらいたい」  ヒロの作ってくれるご飯は美味しいしね、と。花冠で目元は見えないが、きっと満面の笑みだろう口元で綴られ、毒気を抜かれてしまう。その邪気の無さに、「まあ、いいか」という思いすら湧き上がる。  昶と亜耶は顔を見合わせ、頷きあって互いの思惟を確認する。  この際、元の世界に帰してくれる気があるのなら、それで(よし)としよう。これ以上の追及も無駄だと確信した。ここは一つ、花冠の少女の戯れ(あそび)に乗るのが正解だ――。  そんな思いの、目と目で語る取り交わしだった。  昶の口からフッと浅い息が吐き出される。黒髪に手を押し当てて一頻り掻いた後に、黒い瞳が花冠の少女を見やる。 「それじゃあ、“()()()の場所”については、大人しくヒロ君に聞くわ。六日後のお昼過ぎに――」  待ち合わせ予定の追認を口出す最中、不意と昶の目端が鋭さを帯びた。  と思えば、昶は身を僅かに屈め、携えていたホルスターからオートマチック拳銃を取り出し、初弾までの動作を済ます。  (かたわ)らの亜耶も険しい面持ちで即座に動ける体勢を取り、瞬時に小さな魔法陣を複数展開させていた。  それは瞬きの合間であった――。  何事だと思う間もなく、埠頭の騒めき声を押し止める、銃声と思しき発砲音が辺りに鳴り響いた。
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