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マスケット銃は銃身にライフリングが施されていない、先込め式の腔式歩兵銃だ。
弾は銃口にフィットした丸弾が使用されることが多く、砲身に詰める作業自体は簡単。その反面で、空気力学の影響で的に当てるのが難しく、見当違いの方向へ跳んでいくのはザラにあったという。
――つまり、件の男が撃った弾の行方は、そういうことだ。だが、彼は自らの弾が防がれたもの、と信じ切っている様子。
「えーっと……、あの格好は。もしかして、あの人って……」
「リュウセイさんとはタイプが違いますが……、海賊の頭目風ですね。敵意を以て仕掛けてきたということは、彼がイリエ衆の頭目ではないでしょうか」
「ああ。やっぱり、あれが噂のイリエ氏、なのね……」
想像していたより、ずっと残念な雰囲気をひしひしと感じてしまう。
ヒロのような優男風ながらも覇気ある男気や、リュウセイやその部下の海賊衆が持ち合わせていた屈強さも無く、ナルシストっぽくキザっぽい空気を全体に纏っているから――。
辺りの様子を窺うと、やや遠巻きに他の海賊の面々もいる。一応は子分を引き連れてきたようだが、子分たちは“紫電”に恐れをなして距離を取っているらしい。
呆気に取られるというか、憐れみを含むというか。なんとも表現しづらい眼差しを向けていれば、黒髪の男――イリエはふっと一笑に鼻を鳴らした。
「不肖イリエ・ブラバー、少女たちを驚かせてしまったようだね。だけれど――、すまない。不意打ちは海賊にとって、時に美学でね」
イリエは言いながら、手荷物から装薬と丸弾が包まれる薬包を取り出し、徐に銃口へ込め始めた。
――どうやら、開封せずにいいタイプの薬包らしい。装薬と丸弾を別々に詰める手間を省いた、包みが砲身の中で自然に破ける薬包も存在する。
もう一撃、仕掛けてくるつもりか――。いくらマスケット銃の命中精度が悪いとは言え、万が一もある。もしも撃とうというのならば、次こそは容赦しない。
さように考え、昶と亜耶は事前の報復行為を取れるように身構えた。
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