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「ねえ、亜耶。強い魔力を感じてヤバいって思ったけど――、この男の子って……」
「ええ。見覚えがあります。あちらの小さい船に乗っている女の子も」
「あ、本当だ。ねえねえ、この子たちって、あの変な真っ白な部屋で逢った子たちだよね?!」
周囲モニターから見える外の光景を目にして、コックピットで昶と亜耶は言い合う。
“紫電”の機体に乗り上げてきた黒髪に碧い目の青年と、海面に浮かぶヨットに座り込む亜麻色の髪と翡翠の目をした少女――。
この青年と少女は、いつだか不可思議な力で誘われた四方が真っ白な壁で囲われる、『紙に書かれた条件をクリアしないと出られない部屋』で鉢合わせた異世界の住人たちに違いない。
「はい。ヒロさんとビアンカさん、で間違いないと思います」
「だ、だよねえ。で、ででででも、今回は真っ白の部屋じゃないわよ」
「島がぽつぽつと見えますが、一面の海という感じですね」
金の双眸が周囲モニターの映す碧の海原という景色を見やり、亜耶は眉間に皺を寄せる。
碧を帯びる海の色は、水質が良好な遠浅の海の証。よくよく見れば、海面近くに色鮮やかな魚の群れまで確認できる。辺りには大小さまざまな島が見受けられ、自然豊かな印象だ。
ここまで人の手が入り込んでいなさそうな環境を、滅多に見られるものでは無い。そもそも、自分たちが“紫電”のテスト飛行を行っていた空域とここは、一切関係の無い場所だろう。
一体全体なにが起こったのか、頭が混乱していて整理が追い付かなかった。辛うじて行きついた、そうではないかと勘が得る事象もあるが――。まさか、という思いも強い。
「と、とりあえずさ。ヒロ君ってば凄く怖い顔してるし、“紫電”を壊されちゃたまんないから。挨拶くらい、先にしましょっか……」
「あー……。そう、ですね。何やらヒロさんの左手に強い魔力が集中していますし……、これは黙っていたら不味いですね」
自分たちの知る黒髪の青年――、ヒロはへらへらと人当たりの良い笑顔を振りまく人物だったはず。それがどうしたことか、周囲モニターで確認できる彼は鋭い眼光で敵意から“紫電”を睨みつけている。
ヒロの胸の高さに掲げられた黒い革手袋を嵌めた左手に、不穏な気配を帯びた強い魔力が寄り集まっていくのも感じ、もしかすると“紫電”の機体に魔法攻撃でも喰らわせるつもりなのではと思わせた。
これを静観していては“紫電”を壊されかねない。そう思いなし、昶は慌ててコックピットハッチの開閉スイッチに手を伸ばしていた。
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