閑話<潮風そよぐ浜辺で>

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「ポッキーが手に入らないんじゃ厳しいわね。しょうがないけど違う要望を考えてみたら?」 「だねえ、残念だけど仕方ないや。昶が亜耶とビアンカ(ふたり)に罰ゲーム出してる間に考えとくよ」 「オッケー。あたしが二人にやってもらおうと思ってたことはね――」  遂に来たかと思い、亜耶とビアンカは揃って息を呑む。  果たして何を要求されるのだろうかと身構えてしまうが、そんな二人を目にして昶の目元がへらっと緩み言葉を継いだ。 「亜耶とビアンカちゃんから“キス”してほしいかな」  語尾にハートマークがついていそうな程、にこやかに昶は言う。  そんな要望を聞くや否や、ビアンカは「ふぁっ?!」と妙な声を上げ、(かたわ)らで亜耶が矢張りという心情を乗せる溜息を吐いた。 「やっぱり、そうきましたか。予想はしていました」 「罰ゲーム的に相応しいでしょ。女同士なら大して気兼ねも無いし」 「ポッキーゲームと同様で罰ゲームとしては適当ですし、確かに同性でキスの一つや二つは問題ないですけどね」 「……男同士じゃキスの一つもできれば遠慮したいし、僕も今だけは女の子になりたい。――っていうか、昶も亜耶も女の子同士とはいえチューすることに対してドライだよねえ」  昶と亜耶の会話を聞き、ついついヒロは思ったことで口を挟んでしまう。心中では「ビアンカとは大違いだ」と考えど、それは声にせずに押し込める。  かく言うビアンカはといえば、昶の要望がショッキングだったようで固まっている。育ちから勘がえれば()()()反応だった。 「ええ、まあ。同人誌()みたいな『くっ(ころ)』状況じゃないだけマシですし。なんだかんだ私は昶のこういう要求(ところ)に慣れていますし。負けは負け、約束は約束ですしね」 「えっと、くっころ? ……ってなに?」 「まあまあまあ、それは置いておいて。――早速だけど、ビアンカちゃんからお願いしようかな」 「ひゃひっ?!」  ビアンカが名指しされた途端、ビクッと大げさなほどに肩を揺らす。  頬を引き攣らせて翡翠の瞳を昶に向ければ、にっこりと至極いい笑顔に迎えられ、今度は頬が朱を帯びる熱を覚えていた。 「する場所は何処でもいいわよ。唇だろうと頬っぺただろうと、ビアンカちゃんのしたいところでいいからね」  さあさあ、どうぞどうぞ――と。腕を広げつつ朗らかに言う昶に圧されつつ、ビアンカは恐る恐ると一歩ずつ足を踏み出していくのであった。
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