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周囲モニターから見える空の情景と、展開されたホログラフモニターを交互に見やる。
“紫電”は魔法動力炉のエンジン音を響かせ、後付けのランドウイングも難なく動いている。機体は何の問題も感じさせずに正常な動作をしているし、計器もアプリケーションもエラーを示さない。
ならば、先ほどまでの制御不能という現象は何だったのか。考えてはみるが、想像が及ばなかった。
「魔力濃度……、計測許容範囲の数値しか出ないわね」
「そうですね。あの時のような強い魔力の波長も一切感じませんし」
魔力濃度の計測値に注意を払っていた昶がぽつりと呟けば、辺りの魔力の流れに意識を向けていた亜耶は同意を洩らす。
ヒロとビアンカとの再会の挨拶も颯とで、昶と亜耶はすぐさま“紫電”で大空へ飛び立った。自分たちを“時空の穴”から追い出した出口が未だ残っていれば、という一縷の望みに賭けて。だが――、異空間へ通じていた道は、無情にも既に口を閉じた後だった。
その後に暫し、周辺空域に魔力濃度の高い部分が無いか探索してみたが、“紫電”の魔力計測器は『ERROR』を表記するほどの魔力を感知しなかった。
異常が見られないということは、自分たちが引き込まれた“時空の穴”を作り出すほどの魔力が、大気中に無いと顕著に表した。強い魔力が計測できない現状は、元の場所に戻る方法が限りなく無いに等しいとも示している。
あの時は、まるで某ラブコメロボットアニメの架空文明遺産である瞬間移動――、あれは実際の瞬間移動の原理とは概念が微妙に違うようだが。まあ、それを強引にさせられたような、そんな印象を昶は受けた。アニメのあれは花の名前で呼ばれる装置ないし、小難しい知識や複雑な技術が必要だったけれど――、と。再び頭の片隅でメタフィクション思想を馳せる。
あまりにも解せない事態に昶も亜耶も黙り込み、視線だけがゆるりと左右へ動く。耳にはエンジンの唸る音とランドウイングが魔力残滓を吐き出す噴出音だけが届き、ふたりが沈思黙考している様を窺わせた。
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