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暫しの沈黙の後に、ふと昶は黒色の瞳を複座の前方――、亜耶の座るシートへ向けた。
「――落っこちる直前にさ。景色が見えたじゃない?」
「はい。三つほど、大きな陸地がありましたね。真ん中の大陸が一番大きくて、そこに大木がありました。上に町が建てられるんじゃないかと思うほどの大きさで、凄かったです」
謎の異空間から引きずり出されるように外へ出た瞬間、昶と亜耶の目に映ったのは――、三つの目立つ大陸と、その真中の大陸にある一本の大樹。ゲームで言う世界樹の如き存在感ある巨大な木は、二人の記憶に鮮明に残っていた。
「あの木、なんの木?」
「気になる木、ですね」
うん、某コマーシャルソングじゃないんだから――、と。心中でツッコミを入れつつ、昶は考える。
昶の生前に過ごした場所では世界一の大きさだという、トゥーレの木と呼ばれる大木があったが、あれの何十倍もの幹周が亜耶の言うところの『気になる木』にはあった。
そして、転生先の異世界でもあれほどの大樹を見たことも無いし、聞いたことも無い。
そこまで逡巡と思慮をして、昶は一つの目星に行き着いた。だけれども、まさかという思いも強く、今一つ確信が持てない。
「これってさあ。もしかするとって現象に、心当たりがあるんだけど……」
昶が言い辛そうに漏らすと、亜耶はシートに寄り掛かりふっと溜息をついた。
「奇遇ですね。私もです」
「あー……、やっぱり? これって多分さあ。あれ、だよね?」
遡って考える、ここまでの出来事――。
自分たちは“紫電”のテスト飛行を行うために、強襲揚陸艦“アトロポス”から離艦した。その最中で突として不穏な強い魔力を感知したと同時に、口を大きく開けたのは“時空の穴”だと思われる異空間への入り口。
“紫電”ごと異空間から伸びた黒い腕の群れに掴まれ、引きずり込まれた先で出くわした謎の少女は、昶と亜耶の理解が追い付かないことを言い、やにわに異空間の出口を開いた。
そして、異空間から追いやられた場所が何処なのか一切検討が付かない。
あまつさえ、以前に成り行きで出逢った異世界の住人だと思しき男女――、ヒロとビアンカがいた。
それらから単純に考えるに、自分たちの身に起こった事象の正体は――。
「いわゆる、“異世界転移”という現象だと思います」
亜耶が冷静な声音で言えば、昶は「だよねー……」と天を仰いで嘆息した。
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